南部菱刺しとは、菱の枠のついた模様を組み合わせて表現してゆく技法です。しかし、菱の枠のない模様を連ねる地刺しや、布の横糸と縦糸に沿って刺す部分の組み合わせで丸を表現する丸刺しという刺し方もあります。今回は地刺しと丸刺しについて綴りたいと思います。
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地刺し
菱刺しでは、菱の枠のことをアシガイと呼びますが、この菱の枠のない模様を刺し連ねる刺し方を地刺しといいます。広い範囲に刺し連ねたり、小物を制作する際にも地刺しを施す場合が多いです。
南部菱刺しと津軽こぎん刺しの違いについての記事でも触れましたが、菱刺しは偶数目を拾って刺すので横長の菱形が出来上がり、こぎん刺しは奇数目を拾って刺すので縦長の菱形が出来上がります。このように、菱形においては、その違いがはっきりとしています。
しかし、地刺し模様においては、菱刺しの図案に奇数目を拾う模様もありますし、こぎん刺しの図案に偶数目を拾って刺す模様もあり、菱刺しよりの模様なのか、こぎん刺しよりの模様なのか、話題に上がることございます。
地刺し模様は、菱刺しにもこぎん刺しにも共通したものともいえますし、違いの見分けが難しいともいえます。地刺しはあくまで地刺しなのかもしれません。
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布と糸の組み合わせやデザインによって、異なる雰囲気を楽しむ
同じ模様でも、布と糸の組み合わせを変えることで色彩に変化を生んだり、デザインにアレンジを加えることで、ひと味違う風情を愉しむことができます。
松笠模様です。やや縦長の布に、青系の糸(5本取り)でグラデーションをかけながら刺しています。
こちらも同じ松笠模様ですが、1cm角の目数が縦と横が近い布を使用することで、また異なる雰囲気が生まれます。色を変えるだけでも印象が異なりますよね。5本取りの刺繍糸を使用しています。
生成りの麻布に、藍染めの深い青の糸(8本取り)で刺したものです。模様がはっきりと表現されます。
生成りの麻布に、生成りの糸(8本取り)で刺しています。布と糸の色を同系色にすることで、柔らかな雰囲気が生まれているのではないでしょうか。
緑色の麻布にログウッドで染めた糸(8本取り)で刺しています。
色彩感覚もデザインのイメージも十人十色ですから、全てが世界にひとつだけの作品となります。そこが菱刺しの奥深さのひとつです。色彩やデザインの違いを愉しんでみてくださいね。
丸刺し
本来、布の横糸に沿って刺してゆきますが、横糸に沿って刺す部分と縦糸に沿って刺す部分とを組み合わせて丸を表現する刺し方があり、丸刺しといいます。
丸刺しと地刺しを組み合わせて刺しています。地刺しの部分はログウッドで染めた糸(8本取り)を、丸刺しはログウッドで染めた糸(8本取り)と生成りの糸(8本取り)を使用しています。
やや縦長の布を使用したので、丸が縦長になりましたが、1cm角の縦の目数と横の目数が近い布を使用することで、より円に近い模様を表現することができます。
おわりに
菱の枠のついた模様には菱刺しらしさがありますが、地刺しには地刺しならではの、丸刺しには丸刺しならではの味わいがあり、細やかなものや悠然とした雰囲気のものなど、美しい模様が数多くございます。
青森に伝わる刺し子の歴史や芸術性を深く知れば知るほど、地刺し模様の、菱刺しとこぎん刺しの違いについて、やや慎重になりすぎてしまうこともあります。菱刺しとこぎん刺し、それぞれのこれまで守られてきたものの重みを感じ、伝統工芸品としての趣深さを実感するのです。
だからこそ、菱刺しとこぎん刺し、それぞれの個性を知り、伝統に忠実である上で、何より好きな気持ち、愉しむ心を大切にしたいと感じております。
図案として残され、伝えられている地刺し模様は多くありますが、他にも、菱の枠をつけて刺すことの多い模様も、菱の枠を外して連続して刺し連ねることで、新しい雰囲気の地刺し模様として愉しむこともできます。また、地刺しと丸刺しを組み合わせたり、丸を構成する菱を異なる模様にすることで、新たな面白みが生まれます。
是非、ご自身の色彩やデザインで、世界にひとつだけの作品を作ってみてくださいね。お付き合いくださいましてありがとうございました。
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