菱刺しとは、青森県の南部地方に伝わる刺し子技法をいい、菱の枠のつかない模様を刺し連ねる刺し方を地刺しといいます。今回は、地刺し模様の「鱗紋」「縞」「観世水」を施し、「魚」を描いたピンクッションをご紹介します。また、「魚文様」の持つ縁起の良い意味について綴ります。
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魚
地刺し模様である「鱗紋」、地刺し風にアレンジした「縞」と「観世水」を施し、菱刺しで「魚」を描きました。
「魚文様」とは、魚の形や、魚の鱗の模様、また、魚の動きによって水面に表れる、波の模様をいいます。
魚に「鱗紋」、周りに「観世水」を施し、全体的に「魚文様」をイメージして刺しました。
布は1cm角約 縦15目×約12目の麻布を使用し、糸は25番刺繍糸を10種類使用しました。
鱗紋:COSMO167、COSMO254、COSMO253、COSMO213、COSMO733
縞:COSMO152A、COSMO474、オリムパス318
観世水:COSMO475、COSMO474、COSMO152A、オリムパス100
コーチングステッチの芯の糸には藍染め糸を、止める糸にはラメ糸を使用しています。
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魚文様について
中国には、ゆとりのある生活を意味する「年年有余」という言葉があります。
中国語で魚を「ユィ」といい、「年年有余」の「余」と同じ発音であることから、古来、中国では魚は富や幸福の象徴とされてきました。
また、魚は産卵数が多いことから、子孫繁栄を意味する縁起物とされています。
「魚文様」には、浮草や菱、オモダカ、蓮などの水中植物と魚を描いた「魚藻(ぎょそう)文様」や2匹の魚が向かい合う「双魚文様」などがございます。
「双魚文様」は「八吉祥」のひとつとされ、尊ばれています。
「八吉祥」とはチベット仏教の中で特に重要とされる8種の宝物を集めた紋様をいいます。
8種の宝物とは、「双魚(金魚)」「宝傘」「宝瓶」「蓮華」「法輪」「勝幡」「法螺貝」「吉祥紐」であり、「双魚」は世俗の束縛から解放してくれる二匹の黄金の魚であり、自由の象徴とされます。
その他、魚文様には、「めでたい」に掛けた鯛や、苦難の海からの救済を意味する金魚、鰈、ふぐ、鯉などの文様があります。
中国では、竜門という滝を登り切った鯉は龍となり天へ昇るという伝説から、鯉は出世魚とされています。この言い伝えが「登竜門」の語源です。
日本でも、端午の節句には鯉のぼりを飾り、健康や立身出世を願いますよね。
鯉文様の中には、滝を登る鯉を表した「鯉滝登文様」があります。
魚のピンクッション
ピンクッションに仕立てたものがこちらです。
魚を施したものを二つに折り、頭側の面と尾びれ側の面とに分けて、仕立てました。
尾びれ側です。
お好みの面を使い分けることができます。
サイズは、縦約5.5cm×横約9.2cm、高さ約2.5cmです。
詰め物は羊毛を使用することにより、針が錆びない工夫をしております。
周り3面は同色の糸(COSMO733)でかがりました。
針を刺した様子です。
尾びれ側は「観世水」を多く施しており、またひと味違う雰囲気を感じていただけるかと思います。
お裁縫に入れた様子です。
魚ということで、貝殻と一緒に飾ってみました。
厄を振り払って進化する、再生するという意味を持つ「鱗紋」、未来永劫の幸せや無限を意味する「流水文様」のひとつである「観世水」はいずれも縁起の良い意味を持つ文様です。また、「縞(筋)」は江戸時代に粋であるとして流行しました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
どちらの面も続きがありつつ、少し雰囲気の異なるピンクッションをイメージして制作しました。
両面続きがあること、そして、魚模様であったこともあり、制作中も、どこか生き生きとした物語りが膨らんでゆくように感じられました。
水中を漂う魚の姿はそこはかとなく不思議で、時間の流れを忘れるような癒しを与えてくれますが、魚文様も、縁起の良さだけではなく、どことなく神秘性を備えているように感じます。
日常の中で少し「魚」を意識することで、心に潤いが生まれるかもしれませんね。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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