菱刺し

青森刺し子菱刺し地刺し柄で綴る伝統文様。意味や由来について。

南部菱刺し
古くから世界中で様々な文様が生まれ、日本でも多くの文様が発達しました。文様により、それぞれ願いや意味が込められています。今回は菱刺しや地刺しで施した伝統文様を一部ご紹介しながら、その歴史や由来について綴ってみたいと思います。

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菱文様

菱文様は菱形が繋がった文様です。

水草の一種である菱の葉、あるいは菱の実に由来します。菱の実は栄養価が非常に高く、薬効成分も含まれているとされ、古くから重用されていました。また、子供の健康を祈るひな祭りの菱餅は心臓の形を表しており、魔除けの意味を持つという説もあるようです。

菱形がもとになった模様の種類は大変豊富で、菱の葉の部分を花びらに見立てた「花菱」や、いくつかの菱が重なった「入子菱」などがございます。

菱形は縄文時代の土器にも使われており、大変歴史の深い模様です。

 

菱文様
菱の小模様を刺し連ねたものです。すすき+藍と藍染め、白色の3糸で刺しています。

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梅は中国原産ですが、日本に伝えられたのは奈良時代以前といわれ、花見とは、奈良時代に梅の花を観賞した貴族の行事が始まりでした。

梅は昔から人々に愛され、和歌や浮世絵、工芸品、家紋など、様々なものに用いられてきました。

げん担ぎとして、学問成就や安産祈願のアイテムに使用されることも多いです。

学問は、「梅の花が咲く頃に栄える」という言い伝えや、学問の神様とされる菅原道真公が梅をこよなく愛したことに由来し、安産は「梅」と「産」をかけたことに由来します。

 

梅の花
菱刺しの「梅の花」です。「梅の花」は菱刺しの代表的な模様です。中心の梅はログウッドとりんご染めの糸で、水色の梅は藍染め糸で刺しました。

亀甲文様

亀甲は六角形の文様です。

西アジアが発祥の亀甲文様は、日本へは、飛鳥奈良時代に中国から伝えられ、亀の甲羅に似ていたことからこの名前がつけられました。亀は子孫繁栄や不老長寿の象徴とされています。また、亀の甲羅のようにかたく身を守るという意味もあるようです。亀の六角形は崩れない連続模様であることから、和を持つという意味もあります。

亀甲の中が入子になった「子持ち亀甲」や、中央に花菱が描かれた「亀甲花菱」、亀甲を山形に三つ組み合わせた「毘沙門亀甲」など、様々な派生模様がございます。

英語では「ビーハイブ・パターン(蜂の巣模様)」と呼ばれます。

 

亀甲文様
地刺しの亀甲模様です。刈安で染めた糸で刺しました。

鱗文様

鱗文様は、三角形が交互に連なった模様です。

魚や蛇、龍の鱗に似ていたことから、このように呼ばれるようになりました。蛇や蝶を連想させ、脱皮を表し、厄を振り払って進化する、再生するという意味を持ちます。

三角形が連なる幾何学的なこの模様は、古代より日本だけではなく世界各地で見られ、海外でも厄除けの模様として親しまれています。

 

鱗紋
地刺しで施した「鱗紋」です。オリムパスの753番の糸で刺しました。

立涌文様

立涌文様は雲気が涌き立ち昇る様を描いた文様です。

「雲気」が「運気」となり、運気の上昇を意味します。平安時代以降に高位者が用いた有職文様のひとつです。

立涌の間に雲や波が描かれた「雲立涌」や「波立涌」、立涌が途切れた「破れ立涌」、曲線の部分が竹や藤の茎やつるから成る「竹立涌」や「藤立涌」などがあります。

 

立涌文様
地刺しの立涌模様です。オリムパスの196番の糸を使用しました。

矢絣文様

矢絣文様は矢羽根を並べた文様です。

矢は射られると、真っすぐに進むことや、「的に当たる」という意味から、縁起柄とされています。

元々は絣という織物の技法が用いられたことから「矢絣」と呼びましたが、現在では織物技法を用いないものも矢絣と呼ぶようです。

矢は一度打つと戻ってこない為、娘が出戻りをしないように、という親心と言葉遊びから縁起が良いとされ、江戸時代には婚礼の贈り物の装飾に使われました。また、明治頃には女学生の間で矢絣文様の袴が流行しました。現在でも大学の卒業式の際に着る着物柄として人気の高い模様です。

 

矢絣文様
地刺しの連続模様です。りんご染めの糸を使用しました。

竹文様

竹は縁起の良い意味を多く持ちます。

竹の真っ直ぐ割れる様は、さっぱりとした清々しさを、竹の生長の早さは、勢いの良さや健やかな成長を、竹の冬にも艶やかな緑を変えない様は、不変や若さを、竹には節があることは、節度のあることを意味します。

 

竹の節
地刺しの竹の節です。DMCの966番など、緑系の色を約10種類使用して刺しました。

市松文様

市松文様は2色の正方形を交互に配した模様です。

元は有職文様のひとつであり、「石畳」や「」と呼ばれていましたが、江戸時代に歌舞伎役者の佐野川市松が衣装に使用したことから、この名前で呼ばれるようになりました。

古くから織物の文様として使用され、正倉院にもこの文様の染織品が収められています。世界中にこの文様は見られ、英語圏では「チェック」や「チェッカー」と呼ばれています。

 

市松文様(石畳)
菱刺しでは「石畳」と呼びます。オリムパスの520番で刺しました。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

菱刺しをしておりますと、自然と日本の伝統文様に触れる機会も多く、その意味や由来に興味を持ちました。意味や由来を知ると、色の選び方や模様の見え方、意識も変わってくるように思います。また、感性から生まれたことなど菱刺しと繋がる部分も多いと感じます。

同じ文様でもバリエーションが豊富なので、時には模様に変化を持たせ、アレンジ柄を楽しんでみても面白いかもしれません。

日本伝統文様はそれぞれ意味を知ったうえで、贈り物に伝統文様があしらわれたお品を選んでみり、自分自身でも身につけることで、より意味深いものとなり、愉しみも増えるのではないでしょうか。

お付き合いくださいまして、ありがとうございました。

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