菱刺し

桜、柿渋、ログウッド染めで綴る菱刺し「梅の花」ソーイングセット

南部菱刺しソーイングセット
青森県南部地方に伝わる刺し子技法を菱刺しといいます。「梅の花」は菱刺しらしいゆったりとしたおおらかさのある模様です。今回は桜染め、柿渋染め、ログウッド染めの三種類の草木染め糸で「梅の花」を連ねたソーイングセットのご紹介をします。桜、柿、ログウッド、それぞれの歴史や心身にもたらす効果などについて綴ります。

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菱刺し「梅の花」模様

南部菱刺し「梅の花」
1cm角約 縦8目×横10目赤茶色の麻布に、桜染め、柿渋染め、ログウッド染めの三種類の草木染め糸で施した「梅の花」模様です。

菱刺しを代表する「梅の花」模様の丸みのある様子からは、南部菱刺しのゆったりとしたおおらかさを感じます。

四隅の小さな菱は蕾を表現しています。

「梅の花」模様は布の上に花開くようで、特有の優しい美しさを感じます。

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桜染め、柿渋染めは赤茶色の布によく映え、ログウッド染めの深い紫色が全体に落ち着きを与え、それぞれが引き立て合う色の組み合わせとなったように思います。

草木染めには、ならではの落ち着いた深い味わいがありますね。

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桜染めで施した「梅の花」

桜染め「梅の花」
桜染め糸で施した「梅の花」模様です。

桜は、花からは色付けできない為、開花する直前の樹皮や枝を煮出して染めます。

花びらではなく枝や樹皮から染液を作り出すことに、なんともいえないロマンチックさを感じます。

「サクラ」の由来

古来、桜は穀物の神様が宿る神聖な樹木とされてきました。

サクラの「サ」とは田の神様「サ神」を表し、昔は「サ神」が山から降りると春が訪れると考えられていました。

「サ神」が山から田に降りる前に一度「座(クラ)」する木、から「サクラ」とされたといわれます。

当時の人々は、桜が咲く頃を田植えの時期の指標として、供物を捧げて豊穣を願ったのです。

また、「サクラ」という呼び名は、日本最古の歴史書である「古事記」に登場する「木花之開耶姫(コノハナノサクヤヒメ)」という神様に由来するという説もあります。「サクヤ」が転訛し、「サクラ」とされたのです。

「木花之開耶姫」は大変美しくも短命であったとされ、正しく美しく儚い桜を連想させます。

桜のお花見の歴史

使節団を中国に派遣して行われた交易、外交が盛んであった奈良時代には、多くの中国文化が日本へ伝えられました。

梅もその一つであり、梅が渡来すると、「花見の原型」とされる梅を観賞する行事が貴族の間で始められました。

平安時代に入り、894年に遣唐使が廃止されますと、中国の文化を元にした日本独自の文化が育ってゆき、花見で鑑賞する花が梅から桜へとうつっていったのです。

京都の「神泉苑」へ行幸された嵯峨天皇による「花宴の節」が桜のお花見の始まりとされています。

鎌倉時代には、それまで貴族階級の行事であったお花見が武士階級の間でも行われるようになります。

江戸時代に入り、「享保の改革」の一環で徳川吉宗によって桜の植樹が進んだことにより、庶民にも広まってゆきました。

桜がもたらす効果

桜の花の色は種類によって、白いものから、赤みや紫みの強いもの、黄みや緑みを帯びたものまで様々ですが、主に桜の色とされるピンク色は、緊張を和らげ、心に癒しを与えたり、新陳代謝高める効果などがあるとされます。

「桜色」とは薄い紫みの赤色をさすようです。

また、桜の葉に含まれる芳香成分であるクマリンには、抗菌、抗酸化作用やリラックス作用、鎮静作用、血圧低下作用、咳止め作用、二日酔い防止、むくみ改善などの効果があるとされます。

柿渋染めで施した「梅の花」

柿渋染「梅の花」
柿にある渋みはタンニンという成分によるもので、この柿タンニンが柿渋の主な色素成分となります。

柿渋染めとは、まだ青い未熟な果実を粉砕・圧搾して、長い間発酵熟成させた抽出液「柿渋」で染め、天日干しにして色を定着させてゆく方法です。

一度では浅い色である為、染めと天日干しを繰り返して色を濃くしてゆきます。

このことから、柿渋染めは「太陽染め」と呼ばれます。

柿渋液で染めたものは日光に当たることで退色せずに、色を濃くしてゆくわけです。

柿渋が衣類に使われたのは、平安時代に下級武士が着ていた「柿衣」が始まりとされています。

柿渋で染めた茶系の色を「柿渋色」といいます。歌舞伎市川家ゆかりの色であることから「団十郎茶」ともいわれます。

柿の歴史

柿の歴史は古く、縄文時代や弥生時代の遺跡から柿の種の化石が出土しています。

「古事記」や「日本書紀」では「柿」という文字が記され、人名や地名に用いられているようです。

奈良時代には日本の各地に商品として流通され、甘いものがほとんどなかった時代の大切な糖分補給源でした。また、祭祀でも用いられていたようです。

当時は「柿」とは「渋柿」のことをいい、「甘柿」が出てくるのは鎌倉時代以降とされています。

柿渋のもたらす効果

柿渋には防腐効果、防水効果、耐久性を高める効果、抗菌効果、消臭効果などがあるとされます。

魚網や釣り糸、木材、紙、うちわ、傘など、様々なものに用いられました。

防腐作用があることから、僧侶のミイラである即身仏に塗布された例もあったようです。

ログウッド染めの糸で施した「梅の花」

ログウッド「梅の花」
ログウッド染めの糸で施した「梅の花」模様です。

自然染めならではの深く落ち着いた紫色が優しいです。

ログウッドは、別名をアカミノキ、ブラッドウッドといいます。

また、樹液が血のような赤黒い色であることから「血の木」とも呼ばれます。

全ての光を持つ神聖な木

ログウッドは「全ての光を持つ木」、「光を持ってきてくれる木」といわれています。

これは、色素成分であるヘマトキシリンが組み合わせる媒染の違いにより異なる発色をし、多彩な色に染めることができる為です。

例えば、ピアノの鍵盤の黒色やナポレオンのフロックコート、ネルソン提督のネルソンコートなどの濃い黒色や紺色から、ギターのギブソンの赤い色にまで用いられました。

アメリカの先住民族であるマヤ族は、ログウッドを全てを宿す神聖な木として大切にし、染料を伝統的に使用してきました。

日本へは明治の初めに伝えられ、黒染めに用いられるようになりました。

スピリチュアルな効果

ログウッドは全ての色を持つことから全てを内包し、邪気を祓うお守りの木とされます。

人間界、神界、霊界の3つの界に通じるとされ、法衣の染めにも用いられたスピリチュアルな木なのです。

ソーイングセット

南部菱刺しソーイングセット
ソーイングセットに仕立てたものがこちらです。

サイズは、縦約26cm×横約14.5cmです。

ループは、耐久性の高い柿渋染めの刺し子糸を編んで制作しました。

 

南部菱刺しソーイングセット
内側です。

内側には土佐つむぎを使用しています。

土佐つむぎは、「紬」でありながら絹糸ではなく木綿糸を織り上げます。何種類もの染料で作った色で染められた糸で織られる、ひと言で何色といえないような深い色合いが特徴です。

土佐つむぎは高知県が指定した伝統的特産品でしたが、染料を揃えることが難しくなったことや、後継者不足により、近年生産停止となりました。現在では「幻の土佐つむぎ」といわれます。

ポケットとバイヤスの部分は、土佐つむぎよりも柔らかめの綿の布を合わせました。

部分的に柄の布を合わせることでポイントとなったように思います。

 

南部菱刺しソーイングセット
ピンクッションはボタンとループでとめる形なので、取り外すことができます。

小物入れポケットは縦約9.2cm×横約7.2cm、ファスナー付きポケットは縦約9.6cm×横約11.7cmです。

 

南部菱刺しピンクッション
ピンクッションです。

サイズは縦約3.2cm×横約5.3cm、高さ約1.8cmです。

「梅の花」と同じ、桜染め、柿渋染め、ログウッド染めの三種類の糸で菱模様を施しました。

 

南部菱刺しソーイングセット
ピンクッションの裏面には土佐つむぎを合わせました。

ループの部分は、耐久性の高い柿渋染め糸を編んで制作しました。

 

南部菱刺しソーイングセット
針を刺した様子です。

 

南部菱刺しソーイングセット
ループに紐やゴムなどを通し、椅子の手すり部分や手首などに巻いて使用することもできます。

 

南部菱刺しソーイングセット
折りたたんだ様子です。

サイズは、縦約13cm×横約14.5cmです。

 

南部菱刺しソーイングセット
裏面です。

 

南部菱刺しソーイングセット
小物入れポケットは、直径3.4cmのキルト糸が入る大きさです。

 

南部菱刺しソーイングセット
スイートピーを添えてみました。

1月21日はスイートピーの日でしたが、皆さまは1月21日がスイートピーの日とされた由来をご存じでしょうか。

まず、この時期がスイートピーの花の香りが豊かで美しく咲くことに関係しています。

そして、スイートピーはマメ科の植物で、花弁が旗弁1枚、翼弁2枚、舟弁2枚から成る左右対称の「蝶形花冠」という形をしていますが、スイートピーの舟弁は2枚がくっつき1枚となっているのです。

このことから「1・2・1」となり、1月21日がスイートピーの日とされたのです。

また、1982年の1月21日は名曲「赤いスイートピー」がリリースされた日でもあるそうです。

色彩の控えめな冬の時期に眺めるスイートピーの優しい色合いは、とりどりの色に満ちる春を予感させますね。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

菱刺しソーイングセット制作に用いた三種類の草木染め糸、桜、柿、ログウッド、それぞれの歴史を綴りましたが、これらの植物が、衣食住ばかりでなく、まつりや娯楽など、いかに人々の生活全般において関わりが深かったのかを改めて感じました。

今よりはるかにものの少なかった時代、四季の変化は現代よりも奥深い意味を持ち、植物の一年のうちの一時期のみ色付き花を咲かせる姿や旬の味覚は「生きること」そのものだったのだと思います。

現代は季節感が薄れてきていると表現されることもございますが、人工化学物質が豊富な現代では、昔と比べ、自然の恵みを実感する機会も少なくなっているのかもしれません。

しかし、共に歩んだ長い歴史の上に今があることを知りますと、自然から頂く「色」もより尊いものに感じられます。

時代が移ろっても、何気ない日々の中に自然の恵みを感じ、いつも感謝の気持ちを忘れずにいたいですね。

草木染めで綴った「梅の花」から癒しをお届けできれば嬉しいです。

お付き合いくださいましてありがとうございました。

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