菱刺し

【布箱】青森県南部菱刺し。布箱升に入れた青海波のピンクション

青海波ピンクッション
青森県の南部地方に伝わる刺し子技法を菱刺しといいます。
青森県八戸市の海より色彩イメージを得て青海波模様を施し、厚紙と布で制作した升型に入れ、ピンクッションに仕立てました。
八戸の海や夏の海岸を彩る花々、そして青海波模様について綴ります。

スポンサーリンク

種差海岸

種差海岸
太平洋に面し、青森県八戸市の最東部に位置する種差海岸は、国の名勝に指定される場所です。

海岸に自生する天然芝生は珍しく、海岸沿いには松樹林が立ち並びます。

松の影の黒と天然芝の緑のコントラストが美しいです。芝の鮮やかな緑色は夏の季節ならではですね。

 

種差海岸
北国の海は、濃い青の印象が強いです。

種差海岸は岩が多く、どこかどっしりとした印象がございます。

波の強い日には、岩に打ち付ける飛沫が舞う風景に出会います。

この日の海は比較的穏やかで、浜に寄せる波間が光を受けて白く輝いておりました。また、潮目をはっきりと感じる海でした。

 

白浜海岸
こちらは種差海岸近くの白浜海岸です。やはり海の色が濃いです。

お分かりにくいかと思いますが、写真の左の樹林の向こうにぽつんと白く見える建物は鮫角灯台です。

東山魁夷の「道」には灯台は描かれていませんが、モデルとなった種差海岸沿いの県道からは、実際には鮫角灯台を見ることができます。

 

大須賀海岸
こちらは大須賀海岸です。日本の渚百選に選ばれています。

スポンサーリンク

種差海岸沿いを彩る植物たち

種差海岸沿いを、様々な植物たちが彩り、色彩が豊かです。

夏の季節の花々を一部ご紹介しますね。

ハマナス

ハマナス
浜に生えることと、熟した果実は甘く酸味のあることから「浜の梨」となり、「浜梨」が転訛して「ハマナス」と呼ばれるようになりました。

果実が紅く熟し始めていました。八戸地方では、果実をお盆の供物とすることもあります。

エゾノシシウド

エゾノシシウド
背の高い、北方の海岸性植物です。種差を南限とします。

スカシユリ

スカシユリ
花弁の間に隙間があり、間から透けて見えることから「スカシユリ」と呼ばれます。

別名である「岩百合」の通り、岩の上に咲くこともあります。種差海岸の岩の上にもスカシユリが見られます。

キタノコギリソウ

キタノコギリソウ
葉がのこぎりのような形であることが名前の由来です。

北地の海岸や低い山の草原に咲く花です。

ツリガネニンジン

ツリガネニンジン
花が釣鐘状であり、根が朝鮮人参の形に似ていることに由来します。

この季節の種差海岸沿いでは、様々な場所で見かけます。株の数が多いようです。

コバギボウシ

コバギボウシ
湿った草原や湿原に咲く花です。オオバギボウシと比べ、全体的に小さめです。

青海波

おわりなく続いてゆく水平線の向こう側や繰り返す波の様子など、海は無限を感じさせます。

波を文様化した「青海波」は、永遠に続く波の様子に、未来永劫へと続く幸せや、人々の平穏な暮らしへの願いが込められた文様です。

海は水であることから、厄を水に流し清めるという意味も持ちます。

海の文様は種類が豊富で、青海波の他にも、自然の波を描いたような「波文」や波頭が描かれた動きのある「立波」、への字を連ねた「小波文」、波と千鳥を組み合わせた「波に千鳥」、波が巴状に丸く表現された「波巴」、波を円形にまとめた「波の丸」などがございます。

しかし、実は菱刺しには海を表した模様はないのです。そこで、是非海の様子を表現したく、偶数目を数えて刺してゆく菱刺しで「青海波」を表してみました。

 

青海波
海は光の様子によっても色を変えゆき、潮目による色の違いもありますね。また、海から水平線を境に空が続きますので、海と空を眺めておりますと多彩な青を感じ、多くの青糸を用いて、布の上に海を表現しました。

使用糸は25番刺繍糸
COSMOの2167番、COSMOの166番、COSMOの254番、COSMOの2019番、COSMOの2018番、COSMOの2017番、Anchor343番、COSMOの163番、COSMOの162番です。

布は、1cm角縦約15目×横約12目の麻布を使用しています。

ピンクッション

青海波ピンクッション
ピンクッションに仕立てたものがこちらです。

厚さ2mmの厚紙と土佐つむぎを用いて制作した升型に納めました。

 

青海波ピンクッション
青海波ピンクッション
升の前側を他の三辺よりも低く仕立てており、中ほどまで青海波模様が続きます。

 

青海波ピンクッション
升のサイズが約縦5.6cm×横5.6cm、ピンクションの部分が約縦5cm×横5cmです。

 

青海波ピンクッション
升の高さは約3.5cm(前側は約2cm)、ピンクションの上の部分は升よりも少し高めになっており、約4.3cmです。

 

青海波ピンクッション
底の部分にも土佐つむぎを用いています。

土佐つむぎは高知県の民芸布です。

本来「紬」は絹糸を使用しますが、土佐つむぎは木綿糸で織られます。

何種類かの染料を合わせて作られる深く渋い色合いが特徴ですが、拘りの染料を揃えることが難しくなったことや、後継者不足により、近年生産中止となり、現在では「幻の土佐つむぎ」といわれる貴重な布です。

海を訪れた日の、水平線近くの空が青緑色を呈しており、その色彩をイメージしてこちらの色を選びました。

また、紬特有の凹凸のある表面が、どこか気泡漂う水の中にも感じられました。

 

青海波ピンクッション
様々な角度から針を刺すことができます。

 

青海波ピンクッション
金振り和紙と貝殻で海岸を表現してみました。

和紙の水色から黄色みのある白色へのグラデーションが、寄せては返す波を連想させます。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

今回初めて、厚紙と布で制作した升の型に入れたピンクッションを制作しました。

布箱のはじまりは諸説ありますが、お茶の茶葉を入れるための茶箱や、蚕や繭を入れて運ぶための布箱など、いずれも品質を保つために考案された紙箱がはじまりと言われます。

それだけ、紙と布で制作した箱にはならではのやわらかさ、やさしさがあるように感じます。

海の美しさを想い、青海波に込められた願いを布箱に詰め込みましたので、作品より海の恵みや豊かさを感じていただけましたら嬉しいです。

お付き合いくださいましてありがとうございました。

スポンサーリンク

スポンサーリンク