高知県の民芸布に、現在は製造中止となり「幻」といわれる土佐つむぎがございます。「紬」ですが木綿で織られる土佐つむぎは、他にはない深い色合いを持ちます。今回は土佐つむぎと合わせて制作した、青森の伝統刺し子南部菱刺しのカードケースについて綴ります。
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土佐つむぎ
土佐つむぎは高知県の民芸布です。
本来「紬」は絹糸を使用しますが、土佐つむぎは木綿糸で織られています。何種類かの染料を合わせて作った色で染め、糊付けをした糸を織り上げる先染織物です。
土佐つむぎは高知県が指定した伝統的特産品でしたが、現代では、拘りの染料を揃えることが難しくなったことや、後継者がいないことで、近年生産停止になりました。大変残念なことですね。今では「幻の土佐つむぎ」といわれます。
そのような貴重な土佐つむぎとの出会いは、隠れ家風の貴重な布が揃うお店でのことでした。
青緑系、赤系、茶系、黒系の土佐つむぎが並び、いずれも渋みのある雰囲気で、その色合い風合いに一目惚れでした。
今回出会った布は無地でしたが、土佐つむぎには特有の縞柄も多いです。
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糊落とし
紬は織りやすいように糸に糊を付けて織られている為、糊を落としてから使用します。
糊を落としますと余分な染料も抜けます。
糊を落とす前は硬さのある布が、柔らかく薄い風合いとなります。
土佐つむぎと菱刺しの出会い
落ち着いていて渋さのある、というのでしょうか、土佐つむぎ特有の色合いを言葉で表現することが難しいのですが、「何色」とひと言で表すことのできない、多くの色を重ねたような深みがあります。
この土佐つむぎの持つ奥深さが、麻布や菱刺し模様となんとも合うように思うのです。
今回は土佐つむぎを合わせて制作した菱刺しのカードケースのご紹介をしたいと思います。
縦約8cm×横約11cmの、菱刺しで木を描いたカードケースです。
布は1cm角縦約15目×横約12目の生成りの麻布を使用しています。
糸は、緑系を中心とした、Anchorとオリムパスの25番刺繍糸を17色使用し、菱の小模様や地刺し模様を刺し連ねました。5本取りです。
コーチングステッチの芯の糸にはログウッド染め(5本取り)を、止める糸にはラメ糸を使用しています。
裏面には小さな葉を2枚描きました。
ステッチを行った糸は柿染め糸です。
右側のより小さな葉は、様々な緑色の糸を撚り合わせたものです。一種類の色では表現されないような色味となったように思います。
内側です。
茶系の土佐つむぎを合わせ、地刺し模様には藍染め糸を使用しました。
土佐つむぎ、麻布、自然染め糸の落ち着いた優しい色合いや風合いは、どこか共通した温かみを感じます。
カードを入れた様子です。
布の目の大きさに対して、糸は太めのものを使用しています。アレンジ模様の「青海波」になります。
先にご紹介した木の大地の部分も「青海波」ですが、こちらが丸みのある青海波模様であるのに対し、木の大地の部分は「菱青海波」のような印象です。また、木の大地の部分には化学染料染めの刺繍糸(オリムパス318番)を使用しており、模様がはっきりと表現されているように思います。
◇内側に施した青海波模様を刺し連ねたピンクッション
◇木の大地の部分に施した青海波模様を刺し連ねたピンクッション
おわりに
「幻」といわれる高知県の民芸布、土佐つむぎと合わせて制作した菱刺しのカードケースのご紹介をしましたが、いかがでしたでしょうか。
青森の伝統工芸品南部菱刺しに携わっていることもあり、他の地域の工芸品や民芸品にも関心がございますが、合わせて制作することで、改めて考えることが多くありました。
日本には、多くの素晴らしい伝統工芸品や民芸品があり、ものづくりは日本の心であるように思いますが、土佐つむぎのように受け継いでゆくことが困難となる民芸品もあります。
南部菱刺しには数百年の歴史がございますが、その長い時を経て紡がれてきた菱刺しに携われること、触れれることは本当に光栄なことなのだと思います。受け継がれた歴史、人々の想いに感謝しなければなりませんね。
少しでも多くの作品、ものづくりの精神が後世に継がれてゆきますように。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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