菱刺しとは青森県の南部地方に伝わる刺し子技法です。今回は菱刺しの伝統模様である「梅の花」「四つ菱」「瓢箪」を施し、高知県の民芸布である土佐つむぎと合わせて制作した南部菱刺し巾着のご紹介をしたいと思います。梅、菱、瓢箪の持つ意味についても綴ります。
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菱刺し模様
「梅の花」「四つ菱」「瓢箪」を施しました。
布は1cm角約 縦8目×横9目の麻布です。
糸は8本取りの撚りの強い刺し子糸を使用しています。全体的にうっすら紫色のイメージの糸を選びました。
菱刺しには動植物など自然のものから着想を得た美しい模様が多くございます。今回はその中から、梅、菱、瓢箪と、縁起の良い意味や願いが込められた模様を集め、ひと針ひと針心を込めて施しました。
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梅の花
梅の花です。糸は梅鼠色の刺し子糸を使用しました。
梅の花は、菱刺しの代表的模様であり、梅の花のみ伝わった地域もあるようです。
模様を囲む枠をアシガイと呼びますが、多くは菱形ですので、今回の模様のように6つの辺を持つ枠に囲まれた模様は珍しいです。
上下の小さな菱は蕾を表しています。
梅に込められた意味や願い
冬の寒さを耐え、春一番に花を咲かせる生命力溢れる梅の花は、春を知らせる喜びの象徴とされます。
木編は「大地を覆う木」の象形であり、「毎」は「髪を結い髪飾りをつけた婦人」の象形です。「毎」は「草が盛んに茂る」という意味を持ち、「美しく茂る木」から「梅」という漢字となったようです。これらから、梅は豊かさの象徴と考えられています。
また、学問の神様である菅原道真公は梅をこよなく愛した人物として知られています。道真公を祀る全国の神社には境内に梅が植えられており、梅は「学問成就」の意味も持ちます。「学問は梅の花が咲く頃に栄える」という言い伝えもあります。
花言葉は「上品」「気品」「高潔」「忍耐」「忠実」です。
四つ菱
四つの菱が並んだ「四つ菱」です。待ち宵草で染めた糸で刺しました。
模様サイズは、横42目×縦21段です。
菱に込められた意味や願い
菱形は一年草の水草であるヒシの葉、または実が由来です。
ヒシは繁殖力や生命力が強い為、菱形には「子孫繁栄」や「無病息災」の願いが込められています。
ヒシは7月から10月にかけて白い小さな花を咲かせます。花言葉は「夢のような出来事」「成功」です。
また、菱形は魔除けや厄除けの意味を持ちます。
今回は四つ菱を6模様刺しましたので、計24個の菱形を施したことになります。24は5大吉数のひとつであり、健康運や金運を高める数字とされています。
瓢箪
瓢箪です。ログウッドで染めた糸で刺しました。
模様サイズは横42目×縦21段です。
瓢箪に込められた意味や願い
軽くて丈夫な瓢箪は、日本では水やお酒を入れる水筒や水を汲む道具である柄杓(ひしゃく)として用いられてきました。千利休は瓢箪を茶室の花器に用いたともいわれます。また、海外では食器や茶器として使用している国もあります。
このように実用性の高い瓢箪ですが、古来より神が宿るとされ、大切にされてきた縁起物でもあります。
瓢箪は瓢(ひさご)として「日本書紀」に登場しています。
人身御供として水神に捧げられそうになった茨田連衫子が、瓢箪の水に浮く性質を利用し、その状況を切り抜けたという物語りが描かれています。この浮かび瓢箪の伝承のある神社が大阪府門真市の堤根神社です。
瓢箪は種子が多く、蔓が伸びて果実が鈴なりになる様子から、「家運隆盛」や「子孫繁栄」の象徴とされました。
その形状から、「末広がり」や「争いごとを丸く収める」という意味も持ちます。
瓢箪の瓢(ひょう)にかけ、瓢箪3つで三拍子(三瓢子)揃う、6つで無病(六瓢)息災となり、縁起の良いことや健康に繋がります。
今回は6つの瓢箪模様を施しました。
また、「入るのは容易だが出るのは困難」といわれ、一度吸い込んだ邪気を逃さないとされ、魔除け厄除けに用いられてきました。風水では「金」の気を持つとされ、金運上昇の意味も持ちます。
瓢箪の花言葉は「平和」「幸福」「繁栄」「利得」「円満」「夢」です。
土佐つむぎと合わせて制作した巾着
高知県の民芸布である土佐つむぎと合わせました。
本来「紬」は絹糸を使用しますが、土佐つむぎは木綿糸で織られます。何種類かの染料を合わせて作った色で染めた糸を織り上げ、ひと言で「何色」と言えないような深い色合いが特徴ですが、現在ではそれらの拘りの染料を揃えることが難しくなったこと、そして後継者不足により、近年生産中止となりました。現在では幻といわれる貴重な布です。
土佐つむぎは糊落としを行い使用しましたので、柔らかな風合いとなっております。
土佐つむぎについてはこちらで綴っております。
サイズは、約 縦21.5cm×横14cmです。
紐は本革を使用しており、柔らかめです。
裏地には綿布を使用しております。
脇と底です。マチ付きです。一方を縫い合わせています。
土佐つむぎと合わせて制作したカードケースと揃えてみました。
カードケースの大きさは縦8cm×横約11cmです。
小ぶりの巾着です。そのままお持ちいただいてもよろしいですし、小物をまとめて鞄に入れてお持ちいただいてもよい大きさかと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回の土佐つむぎを合わせて制作した菱刺しの巾着は、普段使いに向くような、落ち着いた素朴な雰囲気となったのではないかと思います。
実際、土佐つむぎは、明治・大正時代には普段着として多く使われていたようです。
これまで制作した巾着は、土佐つむぎの他に、正絹と合わせたものや麻布のみで制作したものなどがございますが、合わせる布の種類により、どこか異国風であったり、より日本的であったり、控えめであったり、軽やかであったりと趣を変えるので、そのような点も面白みのひとつであるように思います。
模様はサイズも広く、組み合わせも無限です。また、菱刺しは手仕事ですから、決して同じものは存在しないように思います。
菱刺し巾着は制作していましても、手に持ちましても、どこか特別な気持ちがいたします。皆さまも是非、菱刺し巾着を感じてみてくださいね。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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