梅の花は、まだ冬の名残ある時期に開花し、春の訪れを知らせます。そして春の盛りには、日本の春の象徴といえる桜の花が咲き誇り、桜の花が散りゆく頃、林檎の花が開花時期を迎えます。
今回は、梅、桜、林檎と、初春から晩春まで春を彩る花を咲かせる樹木で染められた糸で刺し連ねた、青森県南部菱刺しの長財布をご紹介し、梅、桜、林檎の花言葉と、その由来を綴ります。
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梅、桜、林檎染め刺し子で施した「梅の花」
左から、梅染め、林檎染め3種、桜染めです。
布は、1cm角約 縦8目×横9目の紺色の麻布を使用しています。
今回は、春に花を咲かせる3種類の樹木で染められた糸を使用しましたので、模様も春を感じる「梅の花」を施しました。
「梅の花」は、菱刺しらしいやわらかさが美しい模様です。
菱刺しの模様を囲む枠は、おおかた菱形ですので、六角形の枠に囲まれた模様は新鮮な印象がございます。
菱刺しは青森県の刺し子ですが、昔から伝わる模様の中に、青森県のシンボルといえる林檎にちなんだ模様がございません。
また、日本を象徴する国花とされる桜由来の模様もないのです。
菱刺しには偶数目を数えるきまりがあることもあり、模様にしやすい形や目数などの関係もあるかと思いますが、改めて考えてみましても少し不思議な気持ちもいたします。
その中で、「梅の花」は菱刺しを代表する模様として愛されてきました。
冬の長い地域では特に、春一番に花を咲かせる梅は、春を告げる喜びの象徴として印象深い花であったのかもしれませんね。
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梅
梅は寒い時期に花を咲かせる、春を知らせる花とされます。
現在は、お花見といえば桜をイメージされるかと思いますが、お花見の起源は、貴族が梅の花を観賞した行事とされています。
梅は、歌に多く詠まれたり、文様として取り入れられるなど、古来、広く愛され、人々の歴史と共にありました。
梅染め刺し子糸で施した「梅の花」です。
渋みのあるピンク色が美しいですね。刺す布などによって、薄紫色や灰色などに感じられる糸です。
花言葉とその由来
梅全体の花言葉は、「高貴」「高潔」「不屈の精神」「忍耐」「忠実」です。
春を知らせる梅の花
「高貴」「高潔」「不屈の精神」「忍耐」は、梅の花のまだ冬の寒さの残る時期に見頃を迎え、一足早くに春を告げる様子に由来する花言葉です。
飛梅伝説
梅は、学問神様とされる菅原道真公が殊に愛した花としても有名です。
菅原道真公は無実の罪で都から大宰府(現在の福岡県)に流されることになりました。
東風吹かば にほひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ
現代語訳で「東風が吹いたらかぐわしい花を咲かせておくれ、梅の木よ。主人がいなくなっても春を忘れてはいけないよ。」という内容の歌であり、庭で大切に育てていた梅の花との別れを惜しみ、道真公よって詠まれた歌です。
菅原道真公が大宰府に左遷されると、主人をなくした梅の木は、主人を慕って京都から彼の元へ飛んだという飛梅伝説があります。「忠実」は、この伝説に由来する花言葉です。
色による花言葉
梅の花は、色によっても異なる花言葉を持ちます。
赤色の梅の花言葉は、「優美」です。
白色の梅の花言葉は、「気品」「澄んだ心」です。
ピンク色の梅の花言葉は、「清らかさ」です。
赤色は艶麗さや香り立つような姿、白色は気高さや端然としている姿、ピンク色は純粋さや可愛らしさを感じさせる花言葉であるように感じます。
西洋の花言葉
「忠実」「約束を守る」「美と長寿」
桜
春の花と聞いて桜の花を思い浮かべられる方が多くらっしゃるのではないでしょうか。
盛んに花を咲かせる姿は大変美しく華やかですが、花の寿命の短さや散り際の儚さがまた美しく、この世の万物はとどまることなく常に変わりゆくという諸行無常を体現しているようです。
桜染めで施した「梅の花」です。
紺色の地に施しますと、どこか夜桜を思わせるようです。
花言葉とその由来
桜全体の花言葉は、「精神の美」「優美な女性」です。
ジョージワシントンの逸話
アメリカの初代大統領であるジョージワシントンが幼少の頃、父親が大切にしていた桜の枝を折ってしまいました。
そのことに気付いた父親から問われた少年ジョージは、自分が切ってしまったことを勇気を持って正直に打ち明けます。
すると、父は、「正直な答えは千本の桜の木より値打ちがある」と誉め称えました。
「精神の美」とは、このジョージワシントンの逸話に由来する花言葉です。
上品で美しい女性
「優美な女性」は、桜の美しさを、上品で美しい女性に例えた花言葉です。
種類による花言葉
桜は種類によってもそれぞれ異なる花言葉がございます。
桜には多くの種類がありますが、一部ご紹介したいと思います。
ソメイヨシノ
ソメイヨシノの花言葉は、「純潔」「優れた美人」です。
山桜
山桜の花言葉は、「純潔」「美麗」「淡白」「高尚」「あなたに微笑む」です。
「淡白」は、花の寿命が短いことに由来した花言葉です。
「あなたに微笑む」は、木々が芽吹く前に、山の中にひっそりと咲く上品な花の姿に、人々が顔をほころばせる様子に由来します。
八重桜
八重桜の花言葉は、「豊かな教養」「しとやか」「善良な教育」です。
幾重にも重なる花びらのように知識を重ねることや、花びらが幾重にも重なる様子が十二単を着た女性に似ていることに由来します。
しだれ桜
しだれ桜の花言葉は、「優美」「ごまかし」「円熟した美人」です。
「ごまかし」は、なめらかで柔らかな枝を垂らす幻想的なさまや、垂れ下がる枝に隠れて姿をごまかす様子に由来するようです。
アメリカでの花言葉
ジョージワシントンの逸話から、アメリカでは、桜の花言葉は「精神の美」と「優れた教育」とされます。
フランスでの花言葉
フランスの桜の花言葉は「私を忘れないで」です。
儚く散りゆく桜の様子に、別れゆく恋人たちの姿を重ねたことに由来します。
林檎
林檎は、4〜5月の桜の花が散りゆく頃、白やピンクの花を咲かせます。
3種類の林檎染め刺し子糸で施した「梅の花」です。
林檎染めは、樹皮や枝、葉、花、りんごそのものなどを染料に使用して染めます。
染料に用いる部位や組み合わせる媒染剤、りんごの品種、季節などの違いにより、様々な色が表現されるのです。
染められる色が多彩であることが魅力のひとつではないでしょうか。
花言葉とその由来
林檎全体の花言葉は「優先」「好み」「選択」「最も美しい人へ」です。
林檎の実の花言葉は「誘惑」「後悔」です。
林檎の木の花言葉は「名誉」です。
愛と美の象徴として語られる林檎は、旧約聖書やギリシャ神話、北欧神話、グリム童話など、どこか神秘的な物語りに登場することが多いですが、花言葉も、これらの神話や伝説にまつわるものが多いのです。
黄金の林檎
「好み」「選択」「最も美しい人へ」「名誉」の花言葉は、ギリシャ神話に登場するパリスの審判に由来する花言葉です。
全知全能の神ゼウスが開いた、人間ペーレウスと海の女神テティスの結婚式には、全ての神々が招待されましたが、不和と争いの女神エリスだけがはその席にはふさわしくないとされ、招かれませんでした。
このことに憤りを覚えたエリスは、「最も美しい女神へ」と記された黄金の林檎を宴席に投げ入れます。
この林檎の権利を主張したのは、ゼウスの妻であるヘーラー、美の女神アフロディーテ、知恵の女神アテーナでした。
すると、ゼウスは、イデ山で羊飼いをしている美しいパリスに判断を任せることに決めたのです。これが「パリスの審判」です。
ヘーラー、アフロディーテ、アテーナは、選ばれる為にそれぞれパリスと約束を交わします。ヘーラーは「アシアの君主の座」を、アフロディーテは「最も美しい女性」を、アテーナは「戦いにおける勝利」を与えるとしたのです。
そして、この中で、パリスが最も美しい女神として黄金の林檎を渡したのは、アフロディーテでした。
このパリスの審判がきっかけとなり、トロイア戦争が起こるのです。
禁断の果実
アダムとイヴは、神様より楽園「エデンの園」の管理を任せれていました。
神様からは「この園の中央にある樹からは実を食べてはならないよ。食べたら死んでしまうよ」と伝えられていました。
ところが、悪の化身である蛇の「食べても死にませんよ。むしろ賢くなって神様のようになれますよ」という誘惑に負け、イブは禁断の果実を食べてしまいます。
そして、イブから勧められたアダムも果実を食べてしまい、二人はエデンの園を追放されてしまうのです。
実のところ、旧約聖書には「この果実が林檎である」と記されてはいないのですが、林檎の花言葉である「誘惑」「後悔」はこの物語りが元となりつけられました。
実りの予感
林檎は、果実よりも先に美しい花を咲かせます。
花は後に実らせる益となる果実の前触れであるとされ、「優先」の花言葉がつけられました。
西洋の花言葉
西洋の林檎の花の花言葉は「優先」「好み」、林檎の実の花言葉は「誘惑」です。
菱刺し長財布
長財布に仕立てたものがこちらです。
サイズは、縦約18cm×横約19cmです。
裏面には全体に薄い芯を貼っていますが、手触りはやわらかです。
折りたたんだ様子です。
折りたたむと、縦約9cm×横約19cmの大きさとなります。
側面です。
内側です。
「梅の花」模様が、外側から内側まで続いています。
内側には、濃い青の麻布を合わせました。
カードと一万円大の紙を入れた様子です。
カードを入れる部分は四ヶ所ございます。
小銭を入れる部分にはファスナーが付いており、後ろにはお札が入ります。
ファスナー部分の大きさは、縦約7.7cm×横約19cmです。
小銭を入れる部分におはじきを入れてみました。
色とりどりで、爽やかですね。
デルフィニウムを添えてみました。
透明な薄い青色が紺色の布によく合います。
おわりに
春を彩る花々を咲かせる梅、桜、林檎で染めた刺し子糸で施した南部菱刺し「梅の花」模様の長財布のご紹介をしましたが、いかがでしたでしょうか。
晩冬に降る雨や光の色、雪融けの音、木々の幹や枝のほんのり紫めく様子など、春を予感させる情景に触れますと、心穏やかで優しい気持ちになりますよね。
春に花を咲かせる樹木で染められた糸は、希望の色に思えました。
春の訪れの喜びや平安への願いを込めた作品です。
綴った花言葉と共に、色合いや模様から、春への希望を感じていただけましたら嬉しいです。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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