南部菱刺しとは、青森県南部地方に伝わる刺し子技法です。
菱刺し模様のひとつである「梅の花」は菱刺しを代表する模様です。また、菱形模様は菱刺しならではであり、菱形は菱刺しにとって特別な形です。
自然染め5色の糸で、5種類の「梅の花」模様を施し、菱形の布箱に入れて制作した南部菱刺しのピンクッションについて綴ります。
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梅の持つ意味
梅は寒い時期に花を咲かせ、春の訪れを知らせる喜びや希望の象徴とされます。
梅の花の5枚の花びらは、福、禄、寿、喜、財の5つを意味します。
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菱刺し「梅の花」
「矢の羽」「矢羽根」「きじのあし」「猫の目」「馬の目」「昆布」「独楽」「牛の鞍」など、菱刺しには様々なものを模した美しい模様が多くございます。
その中で「梅の花」は菱刺しを代表する模様とされます。
菱刺しを学び始めてまず勉強した模様が「梅の花」でした。一方で、刺し方が上達してからでなければ刺せない模様とされた時代もあったようです。また、地域によっては、「梅の花」のみが伝えられた地域もあり、「梅の花」が菱刺しを象徴する模様であることを感じます。
「梅の花」は表面に表現される糸の部分が長めです。それだけ、やわらかな雰囲気を持ち、菱刺し模様の中でもっとも丸みのある模様であると感じますが、表面に表現される糸の部分が長めなので、糸が弛みすぎないように、また、強く引きすぎて布を縮ませないように、その糸の引き加減など、表現の難しさを感じる模様でもあります。
刺す回数を重ねれば重ねるほど、菱刺しを知れば知るほど、奥深さを感じる模様です。
5種類の「梅の花」
ログウッドと待宵草染めの糸で施した「梅の花」です。
菱の枠が網代(檜垣)で表現されており、伝統文様「檜垣に梅」を思わせます。
藍染め糸で施しました。
菱刺し模様の多くは、上下左右対称の模様が多いのですが、こちらは上下が非対称の模様です。このことにより、こちらの「梅の花」は絵画的ななめらかさを感じさせるように思います。
四隅の菱模様は蕾を表したものです。
藍染めの糸で施しました。
丸みのある印象の「梅の花」の中では、少し鋭角的な雰囲気のある模様かと思います。
ケヤキ染めの糸で施しました。
四隅の菱は蕾を表しています。花の周りに蕾を配した模様です。
待宵草染めの糸で施しました。
梅の花ピンクッション
ピンクッションに仕立てたものがこちらです。
布箱は、厚さ2mmの厚紙で組み立てた菱形の箱に、藍染め、ケヤキ染め、待宵草染めで「梅の花」を施した麻布を貼って制作しました。
上から見た様子です。
菱刺しには菱の枠に囲まれた菱形模様と枠に囲まれない地刺し模様とがあり、どちらにもそれぞれの美しさがございますが、菱形は菱刺しならではの模様であり、菱刺しにとって菱形は特別な形であると感じます。
菱形には「子孫繁栄」や「無病息災」の願いが込められ、「魔除け」や「厄除け」の意味を持ちます。
菱形の由来となった水草であるヒシは、7月から10月にかけて白い小さな花を咲かせます。花言葉は「夢のような出来事」「成功」です。
布箱の一辺の長さは約5.5cm、針を刺す部分の一辺の長さは約4.5cmです。
布箱の高さは約3.7cmです。針を刺す部分は布箱よりも高めになっており、約4.7cmです。
菱形の箱の長い対角線部分は約9.2cm(内側は約7.8cm)、短い対角線部分は約5.3cm(内側は約4.5cm)です。
色合いは、針を刺す部分のログウッド染めの紫色を中心に、青系の雰囲気と茶系の雰囲気で合わせてみました。
側面です。
側面です。
底です。麻布を使用しています。
針を刺した様子です。
詰め物には羊毛を使用し、針が錆びない工夫をしています。
ピンクションと同系の色である紫系、青系、茶系の花々、デルフィニウム、トルコ桔梗、アストランティア、パニカムを添えてみました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回ご紹介したピンクションは菱刺しらしさにこだわったピンクションです。
菱刺しにとって特別な形である菱形の布箱を制作し、模様は菱刺しらしい「梅の花」模様を施しました。
少しずつ表現の異なる5種類の「梅の花」を、5色の自然染め糸で施した点もこだわりのひとつです。
梅や菱の持つ意味や願いも込めながら大切に仕立てました。
菱刺しの持つやわらかな雰囲気、菱刺しならではの風合い、色が与えてくれる癒し、菱刺し模様の美しさなど、お伝えできましたら嬉しいです。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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