青森県南部地方に伝わる刺し子技法を菱刺しといいます。菱刺しには自然のものや人々の生活に寄り添ったものに由来する模様が多くございます。今回は桜染めと梅染めの糸で施した「梅の花」「昆布」「矢羽根」「そろばん玉」「矢の羽」模様のご紹介、そして図案について綴ります。
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桜染め糸と梅染め糸で施した菱刺し模様
桜染め糸と梅染め糸で、5種類の菱刺し模様を施しました。
上から「梅の花」「昆布」「矢羽根」「そろばん玉」「矢の羽」になります。
菱の枠は「網代」で表現しました。「網代」の左側が梅染め糸になります。
菱刺しでは、模様サイズを「横の目数×縦の段数」と表し、こちらの5種類の模様は「横38目×縦19段」となります。
菱刺しは偶数目を拾って刺すので、横長の菱形ができあがることが特徴のひとつですが、1cm角約 横10目×縦8目と、1cm角に入る目数が、横よりも縦が少ない布を使用している為、やや縦に長い菱形となりました。
縦長の感じが、ころんとした丸みのある雰囲気を生み、なんとも可愛らしく感じます。
網代
菱刺しの「網代」の図案になります。
「網代」とは、杉や檜、竹、葦などを薄く細長く加工したものを、縦横や斜めに互い違いに編んだものをいいます。
「網の代わり」を意味し、竹や木を編み、網の代わりに川に立てた、魚を捕る為の仕掛けに由来します。
「網代」は「檜垣」ともよばれ、檜垣の地文に梅の樹を配した模様を「檜垣に梅」といいます。
梅の花
模様サイズ「横38目×縦19段」の「梅の花」模様です。
「梅の花」は菱刺しを代表する模様です。
「網代(檜垣)」で菱の枠を表現し、「檜垣に梅」をイメージして刺しました。
「梅の花」の図案です。
昆布
模様サイズ「横38目×縦19段」の「昆布」模様です。
菱刺し模様の多くは、上下対称ですが、「昆布」は上下非対称の模様です。
「昆布」の図案です。
矢羽根
模様サイズ「横38目×縦19段」の「矢羽根」模様です。
四枚の矢が、対角線上に形を作っている様子を表現した模様です。
矢は武芸や競技に使用されます。また、お正月や、男児の初節句や初正月、建物の新築の際に行われる上棟式などには、魔を祓うとされる「破魔矢」を飾ります。このように矢は人々の生活に深い関わりのあるものです。
「矢羽根」の図案です。
そろばん玉
模様サイズ「横38目×縦19段」の「そろばん玉」模様です。
そろばんの様子が大変よく表現されていますよね。
電卓が生まれたことなどにより、現在は習い事以外では、生活の中で見かけることの少なくなったそろばんですが、以前は計算道具として人々の生活には欠かすことのできないものでした。
菱刺しは約200年前から行われてきたとされていますので、「そろばん玉」模様が生まれた時代は、そろばんが今以上に生活に定着したものだったのではないかと思います。
「そろばん玉」の図案です。
矢の羽
模様サイズ「横38目×縦19段」の「矢の羽」模様です。
「矢羽根」は、矢を先から眺めた様子を表していますが、「矢の羽」は、矢を横から眺めた様子を表現した模様です。
「矢の羽」も「昆布」同様、上下非対称の模様になります。
やや縦に長い布を使用することにより、羽根の細長い様子がよく表現されたのではないかと思います。
「矢羽根」の図案です。
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おわりに
いかがでしたでしょうか。
菱刺しの模様は、人々の生活に寄り添ったものを模した模様が多いので、今回は、広く親しまれている桜と、お花見が生まれたとされる奈良時代に鑑賞され、和歌で多く詠まれてきた梅という、人々の歴史と関わりが深く長く愛されてきた2種類の植物で染めた糸を使用しました。
布はうぐいす色の麻布を使用しましたが、緑とピンクの組み合わせは柔らかで優しい雰囲気を醸すように思います。
図案をご参考に、是非、菱刺しという刺し子を施すよろこびや奥深さ、菱刺し模様の美しさを感じていただければと思います。
糸や布の色の組み合わせや布の目の様子によっても異なる味わいが生まれますので、菱刺しの持つ色合いや風合いを感じてみてくださいね。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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