菱刺し

南部菱刺し緑色の地刺し模様【春の草花、名前の由来と花言葉について】

菱刺し
新緑の頃は、植物の多様な色彩に満ちる大変美しい季節です。自然の緑色より着想を得て、種々の緑色を詰め込み、矢羽根(矢の羽)模様を施しました。今回は、知ると面白い春の野に咲く草花の名前の由来や花言葉について綴りたいと思います。

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美しい色彩に満ちる新緑の季節

芽吹きの支度をする早春の幹や枝が呈する深い紫色、開花前の桜の木の枝のほのかに赤みを帯びる様子や蕾の濃い紅色、雨で霞む桜色、桜を散らせる頃の桜色に緑が混じる様子、若い草の淡い緑色、多彩な花色、水田の水鏡に山や雲、空が映る情景など、春と夏にかけての季節は、美しい色彩に満ちる季節ではないでしょうか。

どの季節も、それぞれ素晴らしい色合いに溢れていますが、この季節には、なんとも特有の柔らかさがあるように感じます。

 

春から夏にかけて。朝の山
新緑の季節は緑色の種類がより豊かであり、若葉の香りはどこか懐かしい記憶を想起させるように感じられます。わずかに残る桜色がぽつぽつと入る様子がこの季節ならではですよね。

日の当たる角度によっても色合いが異なって映ります。日が高くなりすぎない早朝では、より色彩が淡く感じられます。

川のせせらぎや小鳥のさえずりは大変風情がございますし、これから少しずつ増えてまいりますカエルの鳴き声はまた趣深いものがございます。

これらの自然が織りなす色や香り、音に触れ、是非種々の緑色を使用した作品を制作したいと思いました。

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緑色を詰め込んだ地刺し模様

菱刺し
地刺し模様の矢羽根矢の羽)です。

8種類の緑色(25番刺繍糸)を使用して刺しました。

上から、オリンパス2015番、オリンパス247番、オリンパス2013番、Anchor267番、オリンパス2011番、オリンパス287番、Anchor843番、Anchor261番です。

緑色は癒しの色とされていますが、やはり落ち着くお色ですよね。

さて、今回は、春散歩で出会った春の草花について綴ってみたいと思います。野に咲く草花の中には、雑草・・・といわれてしまう植物もあるのですが、よく見るとどの植物も可憐で美しい色彩を持っていますよね。

また、名前の由来や花言葉も大変面白く、不思議な特性などを知りますと、また違った見方ができたりと、大変味わいのある世界なのです。

春の野に咲く草花

スギナとツクシ

スギナとつくし
スギナとツクシは同じ地下茎より出ています。

スギナという名前の由来は、草の形が杉に似ていることから「杉菜」を語源とする説や、スギナは節のところで抜いても継ぐことができることから「継ぐ菜」を語源とする説などがございます。

一方、ツクシという名前は、スギナにくっついて出ることから「付く子」を語源とする説や、袴の部分で継いでいるように見えることから「継ぐ子」を語源とする説、土に生える筆に見えることからツクシ(土筆)とされた説などがございます。

スギナの花言葉は「向上心」「努力」「意外」「驚き」です。

「意外」「驚き」という花言葉は、スギナとツクシが同じ地下茎より出ていることに由来します。

ヤマブキ

ヤマブキ
ヤマブキの由来は、山で細い枝が風に靡いて揺れる様子から「山振」となり、これが「山吹」に転訛したという説や、山に生え、花色が蕗に似ていることから「山蕗」とされ、それが「山吹」となったという説、春になると黄色い花で山が満ちる様子から「山春黄」となり、「ヤマブキ」に変化したという説などがございます。

オレンジみを帯びた黄色である山吹色は、平安時代より用いられている色名です。

ヤマブキの花言葉は「気品」「崇高」「待ちかねる」「金運」です。

ヨモギ

ヨモギ
ヨモギという名前の由来は諸説あります。

「ヨ」は「いよいよ、ますます」を意味する「弥(いよ)」、「ギ」は茎のある立木を意味し、「いよいよ萌え茂った草」から「弥萌草」を語源とする説、よく燃えることから「善(よく)燃草」を語源とする説、繁殖力が旺盛で四方に広がることから「四方草」を語源とする説などがございます。

また、春に生える若芽を餅に入れることからモチグサ(餅草)と呼ばれます。

花言葉には「幸福」「平和」「決して離れない」「夫婦愛」などがございます。

タンポポ

たんぽぽ
江戸時代、タンポポは鼓草と呼ばれていました。そこから、和楽器である「鼓」の「たん、ぽん、ぽん」という音へと繋がり、タンポポと呼ばれるようになったとされるなど、タンポポという名前の由来は諸説あるようです。

花言葉は「愛の神託」「神託」「真心の愛」「別離」です。

「愛の神託」や「神託」は、古くからヨーロッパではタンポポの綿毛で恋占いを行っていたことに由来し、「別離」は綿毛が風に飛ばされる様子に由来します。

カキドオシ

カキドオシ
漢字では、垣通しと書きます。

カキドオシの茎は、初めは直立していますが、花が終わると地表を這う蔓となります。その蔓は垣根を通り越して勢いよく伸びることから、「カキドオシ(垣通し)」と名前が付けられました。

葉の形がお金(銭)に似ており、茎に連なる為、「連銭草(れんせんそう)」とも呼ばれます。

花言葉は「楽しみ」「快楽」「享楽」などです。

ナズナ

ナズナ
春の七草のひとつです。

春の七草は、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロの七種類です。

ナズナは白い花と三角形の果実が特徴であり、近縁種がありますが、花の色や果実の形が異なります。

春の植物ですが、実際は早春に開花し、6、7月頃まで花を咲かせます。花の最盛期は4月頃です。

ナズナの名前の由来は夏になると枯れることから「夏に無き菜」つまり「夏無(なつな)」という説や、撫でたいほど可愛い菜「撫で菜」という説、朝鮮古語でナズナをナジといい、そこからナズナとなったという説、野面菜が変化してナズナとなったという説など、諸説あるようです。

また、果実が三味線のバチに似ていることから、ぺんぺん草や三味線草とも呼ばれます。

スズナの花言葉は「あなたに私の全てを捧げます」です。

イヌナズナ

イヌナズナ
ナズナの近縁種のひとつであり、花色は黄色で、果実は長楕円形をしています。

ナズナと似ており、近縁種ではありますが、ナズナとは別属のイヌナズナ属であり、食用になりません。食べられないことから「否(いな)」という意味の「イヌ」がつき、イヌナズナとなりました。

ハコベ

ハコベ
春の七草のひとつであるハコベラです。

「ハコベラ」は「ハクベラ」が転じて呼ばれるようになった名前とされており、ハクベラの由来は諸説あるようです。

ひとつは、ハクは帛(音読みでハク、訓読みできぬ)が語源であり、絹を連想することに由来するという説です。

また、ハコベラの花びらは10枚のように見えますが、5枚の花びらが2枚に切れており、5枚の配列がよいことから、「葉配り」がよいとされ、「葉配り」が転じて「ハクベラ」となったという説もございます。

ハコの花言葉は「愛らしい」「追想」「密会」などがございます。

菜の花

菜の花
菜の花(アブラナ)です。

「菜」とは「食用」を意味し、「菜の花」には「食用の花」という意味がございます。

春に咲く菜の花の黄色は大変美しいものですが、古来、菜種油は、食用の油として、また、灯油の原料として大切にされてきました。人々の生活に寄り添い、支えてきてくれたのですね。

明るい緑みの黄色を菜の花色、菜種色といい、アブラナの油のような色を菜種油色、油色といいます。

花言葉には「快活」「明るさ」「小さな幸せ」などがございます。

カタクリ

カタクリ
カタクリはスプリング・エフェメラルの代表として有名です。スプリング・エフェメラルとは、「春の儚いもの」「春の短い命」を意味し、春の妖精とも呼ばれる春植物のことです。

カタクリという名前の由来には諸説あるようです。その中のひとつが、カタクリの花が傾いた籠状の花に見えたことに由来するという説です。「カタカゴ」が省略され「カタコ」、ユリ科であることから「カタコユリ」、そこから「カタクリ」になったとされています。

カタクリの花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」です。

ヒメオドリコソウ

オドリコソウ
ヨーロッパ原産であり、日本へは明治時代中期に入ってきた外来種です。

在来種であり、オドリコソウと似ており、小さかった為、「小さい」という意味の「ヒメ」がつけられました。

オドリコソウは、花笠を被って踊る踊り子の姿からつけられた名前です。

花言葉は「快活」「愛嬌」「陽気」「春の幸せ」です。

シロバナヒメオドリコソウ

シロバナヒメオドリコソウ
ヒメオドリコソウの花色が突然変異で白くなったものです。珍しいですね。なんとも可愛らしいです。

ヤエムグラ

ヤエムグラ
皆さま、ヤエムグラが衣服などにつっくいた経験はございませんでしょうか。茎や葉に下向きの棘が生えており、その棘がひっかかり、くっついているのですが、実はこの棘は、ヤエムグラにとって、大変重要な役割をはたしているのです。

ヤエムグラの茎は大変柔らかく、直立でききません。その為、ヤエムグラ同士であったり、他の植物など、周りに棘をひっかけて伸びてゆくようです。植物の知恵、なんとも不思議です。

また、果実には曲がった毛があり、こちらもくっつきます。

花言葉は「抵抗」です。

ネコノメソウ

ネコノメソウ
画像はまだ開いておりませんが、ネコノメソウの果実は熟すと開き、その様子が瞳孔の閉じた猫の目に似ていることから、この名前が付けられました。

菱刺しをしておりますと、この「ネコノメ」というお名前、大変馴染みの深い名前です。

 

菱刺し「猫の目」
こちらが菱刺しの「猫の目」模様ですが、どこか雰囲気が似ているような気もいたします。いかがでしょう。

ただ、菱刺しでは「ねこのめ」とはいわないんですよね。「ねこのまなぐ」といいます。方言で、目のことを「まなぐ」というのです。

「猫の目」模様を刺していますと、どこか見つめ返されているような気分になります。可愛らしい模様です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

野に咲く花々には、お店に並ぶような草花とはまた違う、飾らない、形の整いすぎていない故の美しさがあるように思います。

菱刺し模様には、自然由来の模様も多く、草木染めを扱う機会も多いので、自然と触れ合うことで、新しいイメージや異なる視点が生まれることも多いです。また、「ねこのめ」など、どこか共通点を見つけますと、新たな面白さも生まれます。

自然は本当に知れば知るほど、味わい深く神秘的な世界が広がっているように思います。

皆さまも是非、自然の奥深さを感じてみてくださいね。

次回は、今回ご紹介した矢羽根(矢の羽)模様のピンクッションのご紹介したいと思います。よろしければご覧ください。

お付き合いくださいましてありがとうございました。

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