岩手県の八幡平市北西部に位置する七時雨山は、新日本百名山や東北百名山に選ばれる名峰です。岩手の20名山にも数えられています。以前、七時雨の自然より着想を得て制作した菱刺し前掛けのご紹介をしました。今回は再び訪れた春の七時雨について、そして、雲の影が大地にうつって流れる七時雨の自然を想い制作した南部菱刺しの雲のピンクッションについて綴ります。
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七時雨
再び七時雨を訪れましたのは、5月の初めのことです。
今年の立夏は5月5日でしたが、七時雨山あたりの季節の流れはゆっくりで、まだまだ緑色は淡く、木々の枝は、まだどこか芽吹く前に見せる深い紫色の気配を残しているようでした。
遠く望む山々には、まだ雪を残すものもありました。
昔は、この残雪や溶けた部分の形によって農作業を開始する時期を図り、豊作を占ったようです。
七時雨山荘までの山道沿いでは、木々の群れがつくるひんやりとした樹陰や、木漏れ日に出会い、淡い緑色の中にまだ残る山桜の色彩が映えておりました。
季節の流れがゆっくりな場所ではありますが、この時季らしく、田には水が引かれ始めており、水鏡に映る景色はまた美しいものでした。
皆さまは、山菜採りをされたことはございますでしょうか。道路沿いには、ぽつぽつとタラやこごみが自生しており、山地ならではの景色に心が安らぐ気持ちがいたしました。
さて、七時雨山の麓には一本桜が立っております。先日の雨風で花を散らしたばかりとのことでした。
巡り合わせで、桜の花とも会うことができましたら幸運でしたが、雨風で散らせたというのは、その名が「一日に七回もしぐれるほど天気が変わりやすい」ことに由来する七時雨山らしく、なんとも趣を感じました。
七時雨を訪れたその日も肌寒く風の強い日であり、草原に立ちますと、風に足を取られるような感覚がいたしました。
遠くの山では、土が舞い上がっておりますよね。
「風の生まれる国」七時雨山ならではの風を感じるようでした。
七時雨山荘の横に立つ白樺の木です。
白色の幹が大変美しく、白樺の木と向かい合いますと、いつも七時雨訪問を改めて実感するのです。
七時雨山荘のカフェ「茶居花」では、シンボルともいえる薪ストーブに火が灯されており、春も始まったばかりであるような、この場所ならではの時節を感じ、暫くゆれる炎を眺めておりました。
昼間でもほのかに暗い店内の中で煌々と燃える炎は大変美しく感じられます。この店内のほのかな暗さが山地特有の空気を感じさせる大変よい味を出しているのです。
「茶居花」という名前は、トルコ語やウイグル語で茶店や喫茶店をチャイハナということに由来し、チャイハナに漢字をあて、「茶居花」となったそうです。
店内には、「七時雨の自然と語らう会」発行の写真やポストカードも並べられております。
1980年代にリゾート開発の計画が持ち上がったようですが、その際に中心となり行動を起こしたのが「七時雨の自然と語らう会」でした。七時雨山を愛する気持ちが、七時雨山の自然を守ったのですね。
現在でも清らかな自然と触れ合えることに感謝しなければなりませんね。いつまでも大切にしたい場所です。
さて、茶居花の向かいに聳える山の斜面は、絶えず、雲の影をうつしており、窓辺に座り、暫く雲の影を目で追っておりました。
雲が影を落としますと、淡い緑色は濃い緑色へと色彩を変えます。その濃い緑色の影がゆったりと横へ横へと流れゆき、そして、ある時には大きな雲が山全体を覆うようなひと時もございました。
途切れることなくそのような物語りが流れており、ただただ景色を眺めて過ごすひと時は大変贅沢な時に思えました。
雲はのどかでした。
七時雨周辺は冬季は雪で道路が閉鎖されますが、深い雪に覆われた大地もいつしか雪解けの季節を迎え、花々が開花し緑が芽吹くわけですが、それらの自然の理を思い、季節が巡ることが奇跡のようにすら感じられました。
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雲のピンクッション
七時雨の自然と触れ、雲を描きたくなり、制作した作品です。
まだまだ若い色彩の七時雨の自然のイメージで、全体的に淡い色合いで施しました。
使用糸は上から、COSMOの152A、COSMOの474、COSMOの475、オリムパスの845、オリムパスの432です。
紫色は春の枝を、薄緑色は春の草木の色彩イメージです。
全体の鼠がかったような色合いは天気が移ろいやすい七時雨を表現しています。
ピンクッションに仕立てたものがこちらです。
麻の葉はデザイン的に施しました。
麻の葉には、オリムパスの318、オリムパスの353、COSMOの253、COSMOの163の刺繍糸を使用しております。
「麻の葉」は、「三角形(鱗紋)」「籠目(六芒星)」「菱形」「亀甲」を含む、縁起の良い文様です。
おわりに
七時雨は、いつ訪れましても、その折、その季節ごとの感動のある場所です。
春の新緑や夏の深まる緑色、秋の紅葉など、その時々で七時雨の自然が見せる美しさは様々ですが、雲の影が大地を流れる様子はいつも心打つ光景であり、思い出に雲の作品を制作いたしました。
是非、夏の七時雨山荘も訪れたいと思っております。
「七時雨」という美しい名前の美しい場所の素晴らしさを少しでもお伝えできましたなら嬉しいです。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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