青森県に伝わる刺し子技法には、南部菱刺しと津軽こぎん刺しがあります。菱刺しは知名度が低く、菱刺しもこぎん刺しと表される場合もありますが、意外に相違点も多いのです。今回は図案など、その違いについて綴りたいと思います。
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南部菱刺しと津軽こぎん刺しの違い
地域
菱刺しは青森県の南部地方に伝わる刺し子技法です。
こぎん刺しは青森県の津軽地方に伝わる刺し子技法です。
地図はCraft MAPの白地図を加工し、使わせて頂きました。
布について
昔は、唯一自給自足で出来た麻布のみを使用していました。
こぎん刺しは濃く染めた藍色の麻布に、菱刺しは浅葱色の麻布に刺し子を施していたのですが、これは、土地が肥えた津軽に対し、南部は土地が痩せていて農作物が育たずに貧しく、麻布を濃い藍色に染めるだけの経済力がなかった為です。それでも、南部の人々は浅葱色の布を晴れた空の色に重ねて捉えていたという、大変素敵なエピソードがあります。
現在は綿素材のコングレスという刺繍(刺し子)専門の布があり、菱刺しでもこぎん刺しでも、麻布もコングレスも使用します。布色も多彩です。
刺し糸について
菱刺しもこぎん刺しも、こぎん糸を使用します。また、刺し子糸や刺繍糸も使用します。
実は、菱刺し糸というものがないのです。菱刺しを始めた頃は、菱刺し糸もあるものと思い、菱刺し糸を探しても見つけることができない・・・、ということがありました。
菱刺しの糸は、こぎん糸、刺し子糸、刺繍糸から探してみてくださいね。
目のすくい方
左の緑色が菱刺しの、右の青色がこぎん刺しの図案になります。似た模様ですが、菱刺しでは「蕎麦殻菱」、こぎん刺しでは「鱗紋」と呼びます。
菱刺しは2、4、6、8というように、偶数目をすくって刺します。横に2目ずつずれてゆきます。
こぎん刺しは1、3、5、7というように、奇数目をすくって刺します。横に1目ずつずれてゆきます。
似た図案でも、横長の菱形か縦長の菱形かで、印象も大きく異なるのですね。
糸こき
糸こきとは、縫い終わった後、布の縫い縮みがないように、指でしごく作業のことです。
運針のように刺すこぎん刺しは糸こきをしますが、菱刺しは、ひと針布に針を通し、またひと針通し、というように布が縮まないように刺し進めてゆくので、「しごく作業」がありません。この違いは大きいと感じます。
ひと針ひと針、布の刺し縮みに注意を払って刺しても、刺し始めと刺し終わりで布の長さの違いのないように、というのはなかなか難しいものです。しかしこの布が詰まらないようにゆったり刺すというのは、菱刺しの大きな特徴の一つであり、とても大切な部分であると思います。
色彩
こぎん刺しと比べ、菱刺しは多彩な色を使用する印象があります。
実際は、現在は布も糸も数多くの色があり、一色の布に一色の糸で菱刺しをされる方、多くの色を使用してこぎん刺しをされる方など、その色彩は各々の感性に依るところが大きいと思います。
それでも、展示館や書物などで触れる作品からは、菱刺しは鮮やかな色彩で構成され、こぎん刺しは濃い藍色の布に白色の糸で紡がれている印象を受けます。
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まとめ
・青森県には、南部地方に伝わる刺し子技法菱刺しと、津軽地方に伝わる刺し子技法こぎん刺しがある。
・現在は麻布の他に綿素材のコングレスもあり、色も多彩だが、昔は、菱刺しは浅葱色の麻布に、こぎん刺しは濃く染めた藍色の麻布に刺していた。
・菱刺しもこぎん刺しも、こぎん糸や刺し子糸、刺繍糸などを使用して刺す。菱刺し糸というものがない。
・菱刺しは偶数目をすくって刺し、こぎん刺しは奇数目をすくって刺す。
・菱刺しはひと針ひと針刺してゆき、こぎん刺しは運針のように刺す。ひし刺しには、こぎん刺しの糸こきのようなしごく作業がない。
・菱刺しとこぎん刺しでは、菱刺しの方が鮮やかな色彩構成の場合も多い。
思うこと
私は、菱刺しにはおおらかで柔らかい印象を、こぎん刺しには緻密で荘厳な印象を持っています。
こぎん刺しに比べると、菱刺しは認知度が低く、菱刺しの作品を見て「こぎん刺し」と言われる方もいらっしゃいますし、お店に菱刺し模様がこぎん刺しキットとして並んでいることもありました。
菱刺しは横長でこぎん刺しは縦長と、その違いはあれど、どちらも菱形模様を刺しますし、保温補強の為に刺され始めたその歴史など、共通点もあり、実際私も心で捉える感覚では、菱刺しとこぎん刺しは大変似ているという印象もありました。
しかし、その特徴についてじっくり考えてみると、相違点が多く、やはり菱刺しは菱刺しであって、こぎん刺しはこぎん刺しなのだと思います。
個人的には、菱刺しの有名すぎない感じも、実は魅力を感じる要素の一つだったりもするのですが、それでもやはり、菱刺しを見て「菱刺し!」と分かって頂けると嬉しいです。
菱刺しとこぎん刺し、どちらも青森の風土や歴史、人々の想いや知恵がなければ決して生まれることのないものでした。
美しい模様と共に、時と心が紡がれてきたのでしょう。
違いを知ることで歴史を知り、歴史を知ると想いが見えてくるように思います。だからこそ、それぞれの個性を知り、その美しさを伝えてゆくことは大切ですね。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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