菱刺し

菱刺し地刺し柄で綴る日本伝統文様「松竹梅」の意味や由来について

梅の花
常緑である松と竹、寒い時期に開花する梅は、日本では縁起物の代表とされます。
青森刺し子南部菱刺しの松、竹、梅の模様をご紹介しながら、それぞれが持つ縁起の良い意味や教え、美しく調和するとされる鳥や動物との組み合わせ、そして、「松竹梅」の由来について綴ります。

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春夏秋冬を通して緑を湛え、千年の齢を保つといわれる松は、長寿や生命の象徴とされます。

松樹千年翠

春は桜をはじめ、花が最も豊かな季節です。そして夏には緑が萌え、秋には葉が色付きます。

このように季節的な華やかさが関心を集める中では、松の翠は少々気に留められにくいものかもしれません。

ところが、色合いが控えめになり、寒さの厳しい冬になると、万古不易の松の翠の美しさを改めて知るのです。

このような松の節操を貫く姿や生命力を讃えた言葉が「松樹千年翠」という禅語です。

うつろいやすい世の中で、うつろいゆくものばかりに関心が向いて、不変の真理を見失うことのないようにしましょう、という教えです。

とはいえ、この世にいつまでも変わらずにあるものはございませんよね。

形あるものはいつかは壊れ、人の心もうつろいやすいものです。

しかし、変わりゆくからこそ救われることもありますし、時流に乗ることも大切なことです。

実際に、松も、不変に見える中でも、春には新芽を伸ばし、時がくれば枯れてゆきます。変わらないように見える中で、静かに変わり続けているのです。

大切なことは、全てがうつろいゆく中で、変わりながら、それでも本質を忘れずにいることなのかもしれませんね。

松に鶴

美しく調和するものを例えた諺です。

松の枝をくわえた鶴の文様に「松喰鶴」がございます。

花をくわえる鳥の文様の元は、イラン高原・メソポタミアなどを支配した王朝であるササン朝ペルシアで生まれました。

日本へ伝えられた、ペルシアを起源とする文様や、中国で生まれた独自の花喰鳥文様に用いられる鳥の種類は、オウムやオシドリ、鳳凰、尾長鳥など、そして、くわえられたものはリボンや宝相華、枝、草など様々でした。

平安時代の後期に異国的文化の和様化が進むと、鶴や雀などの身近な鳥が好まれるようになり、「松と鶴」という、縁起の良い組み合わせで定着し「松喰鶴」文様が生まれました。

菱刺し「松笠」模様

松笠模様
菱刺しの地刺し模様「松笠」です。

模様が引き立ちやすい色の組み合わせを意識しました。

「松笠」とは、松の実を文様にしたものです。

菱刺し「三階菱」模様

三階菱
菱刺しの「三階菱」です。

生成り色の麻布にログウッド染めの糸で施しました。

三階菱の一種「松皮菱」は、松の樹皮の割れ方に似ていることに由来する、魔除けや厄除けの意味を持つ文様です。

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竹は松と同じく常緑であり、若さや不変を意味します。

成長が早く、真っ直ぐに伸びる姿は、子孫繁栄の象徴とされ、未来への希望を意味します。

竹の真っ直ぐ割れる様は、さっぱりとした清々しさを、竹の節は、節度や節操のあることを意味します。

「竹取物語」で、かぐや姫は竹から生まれるように、古来、竹は神聖な植物とされてきました。

竹の実を食べる鳳凰

中国故事では、鳳凰は桐林に棲み、竹の実を食べるとされます。そこから生まれたのが「桐竹鳳凰」という天皇専用と定められた有識文様です。

竹に虎

美しく調和するものを例えた諺です。

中国では虎は竹林に棲むとされます。虎の勇ましさを強調する意味で竹と共に描かれた文様もございます。

竹に雀

美しく調和するものを例えた諺です。

「舌切り雀」からも竹と雀の組み合わせは連想されやすいのではないでしょうか。

「舌切り雀」でも、舌を切られた自分を心配し、探し回ってくれたお爺さんに雀が恩返ししますが、雀は厄をついばむといわれ、一族繁栄や富を象徴する縁起の良い鳥です。

「竹に雀」は、文様にも取り上げられる組み合わせです。

菱刺し「竹の節」模様

竹の節
菱刺しの「竹の節」です。

ベージュの麻布に紅花染めの糸で施しました。

 

竹の節
こちらも「竹の節」です。

白の麻布に様々な緑系の刺繍糸を使用して刺しました。

表現のされ方に少しずつ違いがあり、面白いですよね。

菱刺し「網代」模様

網代
菱刺しの「網代」です。

「網代」とは、竹や杉、檜、葦などを薄く細長く加工し、縦横や斜めに互い違いに編んだものをいいます。その網目を文様化したものが「網代文様」です。

梅は寒い時期に花を咲かせ、春の訪れを知らせる喜びや希望の象徴とされます。

梅の花の五枚の花びらは、福、禄、寿、喜、財の五つを意味します。

お花見の起源である梅

現在は、お花見といいますと桜の花を思い浮かべますよね。しかし、花見とは、奈良時代に梅の花を観賞した貴族の行事が始まりでした。

奈良時代の「万葉集」では、桜を詠んだ和歌が、およそ40首であるのに対し、梅に関する和歌は、およそ120首も詠まれているのです。

梅の樹に鵲

中国では、梅の樹に鵲(カササギ)が止まった図は、吉祥文とされます。

中国語では、カササギを「喜鵲」と表記し、その鳴き声は喜びを知らせるといわれます。

梅に鶯

梅と同じく早春の景とされる鶯との組み合わせ「梅に鶯」は、美しく調和するものを例えた諺です。

鶯の鳴き声も幸運を知らせるものとされます。

菱刺し「梅の花」模様

梅の花
菱刺しの「梅の花」です。

うぐいす色の麻布に、梅染め、桜染め、ログウッド染めの三色の刺し子糸で施しました。

 

梅の花巾着
巾着に仕立てたものです。

合わせた布は肌にも馴染みやすい柔らかなコットン布です。

深い緑色の布と合わせたことで、「梅の花」模様もより引き立ったのではないかと思います。

松竹梅

松、竹、梅のおめでたい三点を組み合わせて「松竹梅」といいます。

中国では常緑である松と竹、まだ寒い時期に開花する梅の三点を、冬の季節に友とすべき三つのものとして「歳寒三友」といいます。

「歳寒三友」は、文人が余技で描く画題に好まれ、逆境の中でも変わらず節操を守る人、厚い友情という、文人の理想を表したものとされます。

日本へは平安時代に伝わりました。日本では「松竹梅」は縁起物の代表として知られますが、元となった中国での認識とは大きく異なっているのですね。

蓬莱山

松、竹、梅が茂るとされる中国の伝説上の山に「蓬莱山」がございます。

「蓬莱山」には不老不死の仙人が暮らし、空には鶴が、海には亀がすまうとされる理想郷です。

日本では、平安時代に、漆工芸の意匠に取り入れられました。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

松、竹、梅の意味や歴史、教えなどを改めて知ると、その奥深さに感動します。

日本では、縁起物の代表として定着している「松竹梅」ですが、元となった中国の「歳寒三友」が表すものと違いのある点も面白いですね。

松、竹、梅は、お祝い品や年賀状の意匠に使われることも多く、文様も絵画的であったり幾何学的であったりと、その表現のされ方は様々です。

南部菱刺しで表される松、竹、梅もまた特有の趣があり、偶数を数えて刺すというきまりがある中で、見事に特徴がとらえられた模様の多彩さにいつも心を動かされるのです。

松、竹、梅、それぞれが持つ物語を知って改めて向き合うと、また新しい姿が見えてくるのではないでしょうか。

お付き合いくださいましてありがとうございました。

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