緑色の植物に囲まれて生活していますと、緑色に染められる自然素材は多く存在するように感じられます。しかし、普通に煮出しては、緑色の植物を用いても緑色の色素を抽出することはできません。自然染めで染められる色は、赤や茶、黄などと比べ、緑や青は少ないのです。自然素材で染める緑色を求め、開花前の紫陽花の葉や茎を用いて染色を行いました。紫陽花染、そして、染めた糸で制作した南部菱刺しのピンクッションについて綴ります。
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用意したもの
・紫陽花の葉と茎・・・300g
・染めるもの・・・綿糸50g、絹糸50g
・焼きみょうばん(アルミ媒染液を作る)
・銅媒染剤
・セスキ炭酸ソーダ(アルカリ抽出に使用)
・クエン酸(染液の中和に使用)
・濃染処理剤ディスポン
・ステンレス鍋
・ステンレスボウル
・菜箸
・不織布
・温度計
・ゴム手袋
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染まりやすい素材と染まりにくい素材
色素はタンパク質と結びつきやすいので、タンパク質を含む絹やウールなどの動物繊維は染まりやすく、タンパク質を含まない綿や麻などの植物繊維は染まりにくいとされます。
ですので、植物繊維のものは表面にタンパク質を付着させ、染まりやすくする、濃染処理を行います。
主に染めるものには綿や麻を用いていますが、今回初めて絹糸も染め、素材による色の違いを見てみることにしました。絹糸でどのような色が表現されるのか、大変楽しみでした。
濃染処理
濃染処理には、市販の濃染処理剤ディスポンを使用しましたが、豆汁や豆乳、牛乳で行うこともできます。
①80~90℃の熱湯1ℓにディスポンを3~4㎖加えます。
②染めるものを入れて、ムラのないように15~20分間程よく動かします。
③取り出して水洗いをします。
染液を作る
植物の緑色の色素はクロロフィルです。生の植物を染料に用いる場合、染めるものに対し、同量以上の植物が必要となりますが、できるだけ多くのクロロフィルを取り出すために、より多くの植物を用いた方がよいです。今回は、染めるものの約3倍の量の葉と茎を用いました。(染めるもの100gに対して、300gの葉と茎)
また、植物をできるだけ細かくした方がクロロフィルを多く取り出すことができます。
細かくした葉と茎を不織布に入れ、セスキ炭酸ソーダでアルカリにして色素を取り出しました。
沸騰後15分程煮立たせ、1ℓずつ、7番液まで取りました。
1番液は黄みが強く、2番液も黄みがある色で、3番液から少しずつ緑みを帯びてきました。
ひと晩置いた染液の様子です。
上は左から1番液~3番液、真ん中は4番液~6番液、下は7番液と、4~7番液を合わせたものです。緑みを強く感じる4~7番液を合わせて染液を作りました。
染め
セスキ炭酸ソーダを入れてアルカリになっているので、緑色に染める場合は、クエン酸を入れて、中和してから染めます。また、絹はアルカリに弱いので注意です。
染液は80度まで温めて、染めるものを入れます。
染めるものは、湿らせてから染液へ入れることで色ムラも軽減できるように思います。
4~7番液では、絹糸と綿糸を二組ずつ染めました。
3番液では、綿糸を染めました。こちらは、藍染めの糸が退色し、白に近い薄い青緑となった糸に重ねて染めてみました。
2番液では、絹糸を染めました。
1番液では、絹糸を染めました。
媒染
緑色に染めるには銅媒染がよいです。ですので、4~7番液で染めた絹糸と綿糸は、一組ずつ、銅媒染を行いました。
4~7番液で染めた絹糸と綿糸のもう一組は、アルミ媒染を行いました。
3番液で染めた綿糸はアルミ媒染を行いました。
2番液で染めた絹糸はアルミ媒染を行いました。
1番液で染めた絹糸はアルミ媒染を行いました。
アルミ媒洗液は、染めるものの5%の焼きみょうばんを用いて作ります。
媒染を終えてすぐの糸です。
左から、4~7番液、絹銅媒染、綿銅媒染、絹アルミ媒染、綿アルミ媒染です。
こちらは、左から、1番液絹アルミ媒染、2番液絹アルミ媒染、3番液綿アルミ媒染です。
4~7番液、銅媒染の絹糸が鮮やかな緑色に染まりました。
紫陽花染め
左上から、4~7番液、絹アルミ媒染、綿アルミ媒染、絹銅媒染、綿銅媒染、左下から、1番液絹アルミ媒染、2番液絹アルミ媒染、3番液綿アルミ媒染です。
染まりやすいとされる絹は鮮やに、綿は落ち着いた色合いに染まったように思います。
深い緑色ではなく黄緑色ですが、4~7番液で染めて銅媒染を行ったものは、美しい緑色に染まりました。
4~7番液で染めた糸もアルミ媒染のものは黄みの強い色合いとなりました。
1番液で染めた絹糸は若菜色のような薄い黄緑色、2番液で染めた絹糸は若葉色のような淡い緑色となりました。退色した藍染めを3番液で重ねて染めた糸の柳染色のような渋い色合いがまた美しいです。
同じ紫陽花の葉と茎から、染液や媒染、染める素材により、少しずつ色の違うこれほど多様な色合いに染めることができるのですね。
今回、緑色に染める為に気を付けたこと、緑染めで感じたことをまとめてみたいと思います。
・染める植物(今回は紫陽花の葉と茎)はできるだけ細かくする。
・染液はアルカリにして取り出す。今回は、セスキ炭酸ソーダを入れました。
・緑色に染めるには、1~2番液ではなく、3番液以降で行う。
・セスキ炭酸ソーダでアルカリになっているため、染める時はクエン酸を入れて、中和してから行う。
・緑色に染めるためには銅媒染を行う。
・今回は、開花前の紫陽花の葉や茎で染めましたが、花を終えた葉や茎がより緑色に染まりやすいようです。
・紫陽花染めは、煮出す際の香りが強いので、空気の入れ替えなど、気を付けたいと思います。
ピンクッション
こちらは、今回紫陽花で染めた3種類の絹糸で菱刺しの地刺し模様を施したものです。
上から、2番液、4~7番液、1番液で染めた糸になります。
白の布に施しますと、色の印象がまた少し違い、面白いです。
これまで菱刺しには綿糸のみを使用しておりましたが、今回初めて絹糸を用いました。
絹ならではの輝きを感じます。
ピンクッションに仕立てたものです。
サイズは、縦約5.4cm×横約7.8cm×高さ約2.4cmです。
布は、1cm角 約縦11目×横11目の麻布を使用しています。
周りは、4~7番液で染めた黄緑色の絹糸でかがっております。
針を刺した様子です。
お裁縫箱に入れた様子です。
紫陽花の葉と蕾を添えてみました。
夏に向けて深さを増す緑色の葉と葉の間より、若い葉の淡い緑色、そして柔らかな枝が覗く様子はこの季節ならではですね。
この日は雨露を帯び、紫陽花の葉が輝いておりました。やはり紫陽花にはしずくがよく似合います。蕾はまだ色味をささず、開花まではもう少し先のようでした。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
染液や媒染、染める素材などにより、同じ葉や茎から、少しずつ異なる多彩な色合いが表現されることに大変感動しました。
グラデーションは、草木染めよりも化学染料染めの方が、表現がしやすい印象でしたが、植物から染める糸でも、染液や媒染の違いにより、細やかに異なる色を表現し、刺し連ねることで、自然染めのグラデーションの菱刺し作品を制作してみたいと、より深く感じました。
今回のピンクッションは、初めての絹糸を用いた菱刺し作品となりましたが、取り入れる素材によっても、作品の幅を広げてゆければと思います。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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