菱刺し

八戸の春浅い海を表現した南部菱刺し針刺し。種差、白浜、大須賀海岸

菱刺し松笠模様ピンクッション
青森県八戸市に位置する蕪島の南から大久喜までは国の名勝に指定されている場所です。海岸沿いを彩る松樹林や種差の海岸に広がる天然芝生が大きな特徴です。
今回は、春浅い八戸市の海岸よりイメージを得て制作した青森県伝統刺し子南部菱刺しのピンクッションのご紹介をします。天然芝生や松樹林から成る八戸市の海について綴りますので、風景もお楽しみいただけますと嬉しいです。

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青森県八戸市の海

八戸の海
白波の引き立つ海、果てまで青が続くような凪の海、陽を受けて水面が水晶のように輝く海、ラムネ色のような海、鈍色の海など、海は、その日ごとに様々な表情を見せてくれますよね。

八戸の海を訪れますと、まずは高台から眺める風景で、海の表情を知ります。

この日はまだ春浅く、濃い色彩が空気の澄んだ冬の余韻を感じさせました。

右側が大久喜方面、左側が蕪島方面であり、中心より左側にぽつんの見える白い建物は「鮫角灯台」です。

海岸へ向かう舗道は、以前は樹木が群生し緑のトンネルが続く場所でしたが、近年伐木され、随分様子が変わりました。

心身安らぐ森林浴の場としてお気に入りでしたので寂しさも感じますが、視界が開けたことで、遠くの海を眺めるようになり、木々の間から覗く海に白い船舶が浮かぶ様子などは、一枚の絵画のようにも感じられます。

種差海岸

種差海岸
「種差海岸」より臨む海の様子です。

この日の海は穏やかでした。

水平線へ向かって変化を見せる空の青と中縹色のような海、水平線はより深い青色を呈し、青の世界は実に神聖な雰囲気がありました。濃い海の青は、藍染めを思わせるほどでした。

空と海の境界はどこか神秘的ですよね。ある年の紅雨の季節、種差海岸より眺めた雨降る境界の、紫色のような、なでしこ色のような霞たなびく様子は、忘れられない情景のひとつです。

 

種差海岸
種差海岸は、天然芝生が自生しています。天然芝の海岸は稀有なようです。

まだ冬の名残を残す季節の芝は枯れ色ですが、春が深まりすと緑萌ゆる情景が広がり、夏に向かうにつれて緑を濃くしてゆきます。

 

種差海岸
種差海岸は「日本の白砂青松100選」に選ばれています。

色彩の控えめな冬の季節には、松の緑色の美しさが引き立ち、常緑であることの尊さがより感じられますね。

また、種差海岸の遊歩道は「遊歩百選」や「美しい日本の歩きたくなるみち500選」にも選定される明媚な場所です。

白浜海岸

白浜海岸
種差海岸より蕪島方面に向かいますと「白浜海岸」がございます。

白浜海岸は「快水浴場百選」に選ばれ、夏には海水浴を楽しむ人々で賑わう場所です。

海岸沿いには青々とした松樹林が続いています。

大須賀海岸

大須賀海岸
「大須賀海岸」です。松の樹林の先に大須賀の海が広がっています。

 

大須賀海岸
松林のあたりにはススキも自生しているのですが、陽を受けるススキの輝きは大変美しいものです。

松とススキが共に並ぶ様子は、四季を通して緑色を湛える松の力強さや、枯れススキのいつの季節も全てが美しい様、それぞれをより引き立て合うようでした。

大須賀海岸は「日本の渚百選」に選ばれています。

東山魁夷「道」

東山魁夷「道」
大須賀海岸を過ぎますと、東山魁夷の絵画「道」のモデルとなった風景に出会うことができます。

記念碑が設けられている場所は「道」が制作された場所です。

「道」では灯台は描かれておりませんが、実際の場所では、遠くに「鮫角灯台」が見えます。

東山魁夷の「道」は作者自身のこれまで歩んできた、そしてこれから歩んでゆく道であり、心の風景なのです。

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ピンクッション

菱刺し松笠模様
水平線へ向かい薄く変化する空の青から濃い海の青、春浅い薄い色の芝、松の深い緑色までの色彩の流れを表現しました。

模様は、松の実を文様にした「松笠」です。

松は厳しい寒さにも耐え、四季を通じて葉色を変えないことから「常磐木」と呼ばれ、吉祥樹とされてきました。常磐とは、永久に変わらないことを意味します。

色彩が控えめな季節のイメージで使用した布の生成り色や、糸の薄い緑色とのコントラストにより、常緑の松を表現しました。

使用糸は25番刺繍糸、COSMO2167、COSMO376、COSMO566、COSMO844、Anchor261、Anchor00843、Anchor862です。

 

松笠模様ピンクッション
仕立てたものがこちらです。

サイズは縦約7cm×横約9cm、高さ約2.7cmです。

 

松笠模様ピンクッション
菱刺し松笠模様ピンクッション
菱刺し松笠模様ピンクッション
菱刺し松笠模様ピンクッション
周りは同色の糸であるCOSMO2167番でかがっています。

 

菱刺し松笠模様ピンクッション
針を刺した様子です。

 

菱刺し松笠模様ピンクッション
お裁縫箱に入れた様子です。

 

菱刺し松笠模様ピンクッション
トルコ桔梗、薔薇、フリージアです。めぐる季節を想い、とりどりの花を添えてみました。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

今回お届けした風景は、春の浅い季節のものでしたが、季節が流れるにつれて草木は茂り、空と海は季節の色へと表情を変えゆきます。

花の季節には、春を知らせるミチノクフクジュソウや、種差海岸を南限とするエゾノシシウド、一日花であるニッコウキスゲ、自生地が少なくなってきている古典園芸植物であるノハナショウブ、種差海岸の固有種であるハチノヘトウヒレン、種差海岸を自生の北限とするハマギクなどの稀有な花々がより色彩を豊かにします。

空と海、草木、花々の移ろいを共に感受することのできる場所は本当に貴重ですよね。

一日の中でも、時刻によっても表情を変えゆきますので、さまざまな時間や季節の風景をお届けしてゆければと思います。

この日の海のように、風景や作品から穏やかなお気持ちになっていただけましたら嬉しいです。

お付き合いくださいましてありがとうございました。

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