菱刺しは、ひと針ひと針刺してゆく、青森県南部地方の伝統刺し子技法です。菱刺しを施す糸に草木染め糸を用いることも多く、自然から頂く色ゆえの優しさや静けさ、魂を感じる温かさに心打たれ、いつしか自分でも草木染めを行えたらという想いがありました。中でも桜染めは、より草木染めの奥深さを感じた染色方法です。
桜チップを用いても染色を行えることを知り、この度憧れの桜染めを行いました。記録として綴ってみたいと思います。
スポンサーリンク
憧れの桜染め
桜には、刹那的であるからこその尊さや神秘性がありますよね。しかし、花の散りゆくさまはあまりに儚げであり、その姿をもう少し留められたらという想いもありますよね。
ある時、桜染めと出会い、桜をしまい込んだような色合いに感動を受けました。
花ではなく、枝や樹皮の、それも開花直前のものを用いると濃く染まりやすいというところにまた、温かさや趣を感じたのです。
とはいえ、想像をめぐらすばかりで、なかなか思い切れずにいたのですが、箕輪直子さんの本で、手軽に桜チップを用いても染色を行えることを知り、憧れの桜染めを行いました。
実際に採集した枝などと比べますと、濃く染めることはできないようです。また、染色方法は独学のものですので、ご参考程度にご覧くださいませ。
スポンサーリンク
用意したもの
・染めるもの(今回は晒150g、麻布30g、白の綿糸(25番刺繍糸、OLYMPUS801)2gを用意しました)
・桜チップ・・・60g
・下地染に用いる豆乳・・・適量
・焼きみょうばん・・・10g
・重曹・・・3g
・ステンレス鍋(鉄や銅は媒染剤に使用するものなので、鉄鍋、アルミ鍋、銅鍋ではなく、ステンレス鍋が好ましいです)
・不織布
・ボウル
・温度計
・菜箸
・ゴム手袋
精錬
不純物や汚れを落とすことを精錬といいます。
市販されているもの、汚れの目立つものでなければ精錬を行う必要はないようです。気持ちとしてぬるま湯で軽く手洗いしました。
下地染(濃染処理)
媒染剤や植物の色素を吸収しやすい絹やウールなどの動物繊維と比べ、植物繊維は染まりにくいです。
綿や麻は植物繊維ですので、下地染を行いました。
下地染には濃染剤(薬品)で染めるもの、タンニン酸を含む草木で染めるもの、豆汁で染めるものがあります。豆汁で染めることで、綿繊維の表面にタンパク質が付き、植物の色素を吸収しやすくするそうです。
豆汁の代わりに豆乳や牛乳を用いてもよいので、今回は豆乳で行いました。
豆乳を水で約二倍に薄め、染めるものが十分につかる位の量の汁を作り、一時間程浸して、天日干しいたしました。
大豆や豆乳、牛乳で行う場合は、生ものですので、からりと晴れた日に手早く行うことが大切です。
染色液を作る
三番液まで取りました。一番液、二番液、三番液、それぞれ色が異なるので、その違いを楽しんでもよいそうです。
今回は一番液~三番液までを合わせて5ℓ程の染色液を作りたいので、約1.8ℓの水で三回煮込みました。
一番液をとる
不織布に桜チップを入れ(不織布に入れることで処理がしやすいです)、1.8ℓの水に重曹1g弱を加えて約30分煮込んで一番液をとります。
水のみでも色は出るそうですが、重曹を加えアルカリ抽出した染色液で染めることにより、赤みの色に染色できるそうです。
15分経過した様子です。
二番液をとる
一回目と同量の水と重曹を加えて、同じ桜チップを約30分煮込んで二番液をとります。
三番液をとる
一、二回目と同量の水と重曹を加えて、同じ桜チップを約30分煮込んで三番液をとります。
一番液、二番液、三番液を合わせる
時間を置くと染色液が濃くなるとのことでしたので、一日置きました。
こちらは翌日の染料液の様子です。
左から一番液、二番液、三番液、一~三番液を合わせたものです。
染色
一~三番液までを合わせた染色液を温め、80度~90度位になったら火を止めて、染めるものを入れます。
染めるものを湿らせておくことで、色ムラを防ぐこともできます。
染めるものを広げたりしながら動かします。染色液が冷えてきたら、浸したまま、一時間~一時間半ほど冷ましながら染めてゆきます。(冷染)
麻布を染色している様子です。
晒と綿糸を染色している様子です。
アルミ媒染液を作る
植物の色素を繊維に定着、発色させるために媒染を行います。
合わせる媒染剤によって、発色が異なります。
媒染せずに染めた色や少し明るめの色に染める場合は、アルミ媒染を行います。
暗めの色に染める場合は鉄媒染を行います。
青、茶、緑に染める場合は、銅媒染を行います。
今回は、赤みの桜色に染めたいので、アルミ媒染で染めました。
アルミ媒染剤は、みょうばんで作ることができます。媒染するものの5%の量の焼きみょうばんを用います。生みょうばんの場合は、媒染するものの10%の量を用いるとよいです。
焼きみょうばんを、少量の熱湯(40~50度くらい)に溶かし、媒染するものの約30倍の水で薄めます。
媒染する
染色したものを水洗いし、媒染液に30分程浸しました。
ほんのり桜色になりました。
好みの色になるまで染めと媒染を繰り返す
一度目の染めと媒染を終えた様子です。
晒(綿)や刺繍糸(綿)と比べ、麻布が色が濃く染まる印象でした。
ほんのり桜色で、こちらの色も美しいですが、少し薄めですので、重ねて染めました。
二回目の染色の様子です。
二回目の媒染の様子です。一回目と比べ、色が濃くなりましたね。
好みの色まで、染めと媒染を繰り返します。
最終的に晒は四回、糸と麻布は三回の染め、媒染を行いました。
色がでなくなるまで水洗いして、乾かします。
四回の染色と媒染を行った晒です。
三回の染色と媒染を行った麻布です。今回用いた素材の中では、麻布が最も濃い色に染まる印象でした。
三回の染色と媒染を繰り返した綿布です。
色ムラ
今回は桜チップを用いて染めましたが、全くのピンク色ではないものの、少し茶みのあるピンク色となり、個人的に好みの色に染めることができたように思います。
一方で、気になったのは、色ムラでした。
色ムラをなくす為には、全体に等しく下地染を行うことが大切なようですが、この点が上手に行えていなかったのかもしれません。豆汁や豆乳、牛乳を用いた下地染の場合、濃度や天候など難しい部分もありますので、開発された市販の濃染剤を用いると色ムラを軽減することができるかもしれません。
また、下地染から染色、媒染まで、染めるものを均一に動かすことが大切なようですが、動かす頻度が低かったことも関係があるように思います。
染める前に皺をしっかり取ること、染色の前は染めるものを湿らしておくことも気を付けるべき重要な点であると感じました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
菱刺しを施す刺し子糸に草木染めを用いることも多く、草木染めに触れる機会は豊富でしたが、実際に自の手で染色を行いますと、より自然から色を頂くありがたさ、命の不思議を感じます。
頭の中で考えていたつもりでも、想像通りとはゆかず、実際に手を動かしてみてこそ知ることが多くございました。
それでも、白であった布や糸が少しずつ桜色に色付いてゆくさまは、布や糸の上で花がひらくようで、和やかな時間でした。
今回染色した桜色の素材で、菱刺し作品の制作に取り組んでみたいと思います。
桜チップ染めは比較的手軽に行えるように思いますので、皆さまも是非桜色に癒されてみてはいかがでしょうか。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
スポンサーリンク
スポンサーリンク