この世に存在する数少ない青色の天然染料の中で有名なものは「アイ」かと思います。菱刺しでも藍染めの糸を使用する機会も多く、藍の濃淡の違いによる多彩な青色の並びは大変美しいです。今回は藍染めや藍で染めた色名を中心に綴りたいと思います。
スポンサーリンク
藍染め
種々の色に染める天然染料がこの世には存在しますが、青色の天然染料は少ないです。
クサギの実でも青く染めることはできますが、有名なものは藍染めかと思います。
アイは最古の染料のひとつであり、アイで染めた青を藍色といいます。
日本では主にタデ科の一年草であるタデアイで染めます。
藍の葉を発酵させた「染(すくも)」と呼ばれる染料が入れられた瓶の中に炭汁や清酒を加え、さらに発酵させ、染色が可能な状態にします。これを「藍を建てる」といいます。
この藍染めの瓶に浸す回数により、色の濃さが変わり、薄く染められたものは緑みに、濃く染められたものは紫みによります。
藍染めはその濃淡によって色名がつけられており、薄い順に、瓶覗き、水浅葱、浅葱、縹、納戸、藍、紺、褐色などの名前があります。
スポンサーリンク
藍染めの濃淡の違いによる色名
藍染めは、色の濃さにより、色名がつけられています。色の名前を一部ご紹介したいと思います。
瓶覗き
藍染めの瓶に浸す回数の少ない極めて薄い藍色のことです。
瓶を少し覗く程度に薄く染められた藍色であることに由来します。
江戸時代から使われるようになった色名です。
浅葱
緑みの青をさします。
平安時代から使われていた色名です。
水色がかった浅葱色が水浅葱です。
縹色
藍色がキハダとアイを合わせた色であるのに対し、縹色はアイのみで染めた純粋な藍染めの色をさします。
花田色や花色ともいいます。
奈良時代から使われていた色名です。
納戸色
灰みの青をさします。
名前の由来は、納戸のうす暗い色であるという説や、納戸に藍染めを収納していたという説など様々です。
江戸時代に使われるようになった色名です。
紺色
藍染めの中で最も濃い、紫みのある色です。その中でもこれ以上は濃く染まらないほど濃い紺色のことを「留紺(とまりこん・とめこん)」といいます。
平安時代から用いられていた古い色名です。
褐色
紺色よりもさらに濃く染めた黒に近い藍色をいいます。「かちいろ」と読みます。
現代では「かっしょく」と音読みし、暗い赤茶をさしますが、中世から近代の日本では濃い藍色のことをいいました。
「勝色」とも書き、鎌倉時代には縁起物として武士に好まれました。
二藍
くすんだ青紫色です。
紅花は呉の国からもたらされた為、「紅」は「呉藍(くれのあい)」と呼ばれました。こちらが変化し、「紅」となりました。
ですので、紅花の「紅」とアイの「藍」、二つの「藍」で染めた色を二藍といい、この染色は平安時代から行われました。
菱刺しと藍染め
菱刺しで使用する刺し子糸には藍で染められたものも多く、菱刺しの藍染めとの関わりは大変深いように思います。
菱刺しと藍染めにまつわる話、そして、藍染め刺し子糸について綴ってみたいと思います。
空の色になぞらえた憧れの浅葱色
青森県に伝わる刺し子技法には南部地方に伝わる「菱刺し」と、津軽地方に伝わる「こぎん刺し」があります。
菱刺しは聞き慣れないという方でも、こぎん刺しはご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
南部菱刺し、津軽こぎん刺し、山形県の庄内刺し子は日本三代刺し子といわれます。
現在は麻布の色も様々あり、綿素材のコングレスという刺繍(刺し子)専門の布もあり、布の種類が大変豊富ですが、昔は、唯一自給自足で出来た麻布のみを使用していました。
濃く染めた藍色の麻布を使用していたこぎん刺しに対し、菱刺しは浅葱色の麻布に刺し子を施していました。
津軽は土地が肥えていたのですが、南部は土地が痩せており農作物が育たずに貧しく、麻布を濃い藍色に染めるだけの経済力がなかった為です。
南部地方は春から夏にかけて吹く「やませ」の影響で曇りの日も多く、晴れた空の青は南部の人々の憧れでした。そこで、浅葱色を貧しさとは捉えず、晴れた空の色になぞらえて見ていたようです。大変素敵ですよね。
藍染め刺し子糸
菱刺しで使用する藍染めの刺し子糸です。濃淡の違いによる多彩な青は実に美しいです。
現在は、刺し子糸はおおかた、紺色の糸のような「カセ」の状態で販売されていますので、右の水浅葱の玉巻のような形の刺し子糸は大変珍しいです。尊敬する方よりお譲りいただいたもので、少し前のものかと思います。宝物です。
藍染め糸で施した松笠模様
松の実を文様化した「松笠」模様です。6種類の藍染めの糸で刺しました。
上から1番目、2番目、4番目、5番目は藍染め、上から3番目はススキ+藍染め、一番下はインド藍で染めた糸です。
1cm角 縦約11目×横約11目の白い麻布に太糸で刺しています。
アイの花言葉「美しい装い」も心に留めながら施しました。
裏面になります。
菱刺しでは表面だけではなく、裏面も大切に刺してゆきます。
裏面に表現される模様もまたひと味違う美しさがございます。
裏面は奇数目も拾う津軽こぎん刺し的な要素も含んだ模様です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
菱刺しで使用する刺し子糸に藍で染められたものが多いこともあり、自然と藍染めに触れる機会も多く、感覚的に種々の青色の美しさにはいつも癒されておりますが、濃さによる微妙な色の違いでつけられた色名を知ることにより、藍染めの魅力がさらに深まり、改めて日本人の感覚の豊かさ、風流な感性に感動いたしました。
私が菱刺しを好きな理由のひとつが、多くの色に触れる機会が多いこともございます。
今回綴りました浅葱色からは錆浅葱や浅葱鼠、納戸色からは桔梗納戸、納戸鼠などの色名が生まれるなど、色の世界は大変奥が深いです。
皆さまもたくさんの色に触れてみてくださいね。
次回は、今回ご紹介した藍染め糸で施した松笠模様のピンクッションについて綴りたいと思います。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
スポンサーリンク
スポンサーリンク