全てが世界にひとつの作品であることは、手仕事ならではの菱刺しの魅力のひとつです。布の目の様子や色の組み合わせ、刺し方のアレンジなどは、個性が現れる大切な要素ではないでしょうか。今回は麻の葉模様を例に、表現の違い、そして、麻の葉ピンクッションについて綴ります。
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個性を大切に
菱刺しの大きな特徴のひとつに、偶数目を拾って刺すということがあります。この為、横長の模様ができあがります。
しかし、布の目の様子の違いにより、模様の表れ方が異なります。
例えば、1cm角に入る目数が、縦よりも横が少ない横長の布を使用しますと、より横に長い模様ができあがりますし、1cm角に入る目数が、横よりも縦が少ない縦長の布を使用しますと、縦に長い模様ができあがります。
また、布や糸の色の組み合わせにや模様のデザインによっても、各々個性が現れます。
菱刺しは、布に針を通し、布縮みのないように、また、ゆるすぎないように心配りをしながら糸を引きます。そして布に針を通して、というように、ひと針ひと針刺してゆく手仕事です。
それゆえの温かみがあり、その時々の心の有り様や糸の引き具合、それぞれの個性により、全てが世界にひとつだけの作品となるわけです。
そうであるからこそ、素材選びや、色合いやデザインなどを考える過程は、より楽しくより拘りたい部分ではないでしょうか。
伝統模様「麻の葉」を例に、布の目の様子や布と糸の色の組み合わせ、デザインによる模様の表れ方の違いをご紹介したいと思います。
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麻の葉
「麻の葉」は大麻の葉に形が似ていたことから、このように呼ばれるようになりました。
麻は強い生命力を持ち、生育速度が速く、環境への順応性も高い植物です。また、天に向かいまっすぐに伸びる性質は善人に例えられます。
「麻の葉」は、魔除けや厄除けの意味を持つ「鱗紋(三角形)」、邪気を祓うとされる「六芒星(籠目)」、魔除けや厄除け、無病息災、子孫繁栄の意味を持つ「菱」、不老長寿の象徴である亀の甲羅のようにかたく身を守るという意味を持つ「亀甲」が含まれる縁起の良い模様です。
こちらは、1cm角約 縦8目×横9目の麻布を使用して刺した「麻の葉」模様になります。
生成りの麻布に、二種類の藍染め糸を使用しました。
こちらは、1cm角約 縦8目×横10目と、より縦に長めの布を使用しました。
うぐいす色の麻布に、ログウッド染めの糸で刺しています。
菱刺しは偶数目を拾い、横に長い模様ができあがりますので、「麻の葉」模様の場合、縦に長めの布(1cm角に入る目数が、横よりも縦が少ない布)を使用することで、「麻の葉」の基本的な形である正六角形により近い模様に仕上げることができます。
裏面です。
「麻の葉」が反転した模様を家紋では「陰麻の葉(かげあさのは)」といいます。
表面の糸の部分が裏面では布の部分に、表面の布の部分が裏面では糸の部分になり、表面と裏面は反対の模様が表現されるわけです。ですので、裏面には正しく「陰麻の葉」模様が表現されます。
ライン状に「麻の葉」を配したものです。
うぐいす色の麻布に、藍染めの糸を使用して刺しました。
先にご紹介した二つをつなげて刺したものです。
「麻の葉」の一部に色の変化が生まれますよね。
六角形の一辺を外して刺しました。
より大麻の葉の形が引き立つのではないでしょうか。
布はうぐいす色の麻布を、糸は葛染めの糸を使用しています。
布と糸の色を同系色にすることで、柔らかな雰囲気が生まれるように思います。
こちらは、渋木染めのより濃い緑色の糸と、ススキ+藍で染めた青緑色の糸を使用しています。布はうぐいす色の麻布です。
葛染めと同じ、緑系の糸ですが、こちらは濃い緑色の糸を用いることにより、よりはっきりと「麻の葉」が表現されたのではないでしょうか。
麻の葉ピンクッション
うぐいす色の麻布に、渋木染めの糸とススキ+藍染めの糸で刺したものをピンクッションに仕立てました。
サイズは、縦約7.8cm×横約8cm、高さ約2.7cmです。
詰め物は羊毛を使用することにより、針が錆びない工夫をしております。
周りは同じ渋木染めの糸でかがっています。
「鱗紋(三角形)」「六芒星(籠目)」「菱」「亀甲」を含む「麻の葉」は、眺める角度により違った見え方のできる不思議な模様ですよね。
針を刺した様子です。
お裁縫箱に入れた様子です。
グラデーションを作った紫陽花の花びらに重ねてみました。
アジサイは原産国が日本であり、奈良時代には記録のある植物です。また、「紫陽花」という表記になったのが平安時代です。
同じく平安時代には用いられていた「麻の葉」模様、紫陽花とよく似合います。
「麻の葉」は一辺一辺が細い模様ですが、太糸を使用することで、模様をはっきりと表現することができたのではないでしょうか。
また、自然染めの渋みのある色合いは、和の味わいや菱刺しの静かな美しさが引き立つように思います。
紫陽花の花びらを並べますと、自然に菱の形に集まり、嬉しかったので載せてみました。
一本で、これだけ多彩な色の花びらを纏う紫陽花、大変神秘的な花ですよね。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は地刺し模様「麻の葉」を例に、表現のされ方の違いについて綴りました。
菱刺しには刺し方のきまりなどもございますが、楽しむ気持ちが何より大切であると感じます。
是非、個性を活かしたあなたらしいあなただけの作品を制作してみてくださいね。
控えめでありながら深い心情を持つ。そのような魅力が菱刺しにはあるように思います。菱刺しの心を感じてみてください。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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