南部菱刺しには、菱の枠のついた型コ模様とつかない地刺し模様がございます。どちらもそれぞれの美しさがございますが、菱の枠のついた模様には、なんとも菱刺しらしさを感じます。今回はいくつか型コ模様をご紹介し、特徴や印象、図案などについて綴りたいと思います。
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栗染め糸で施した菱刺し模様
栗染め糸で、8種類の菱刺し模様を施しました。
青森県に伝わる刺し子技法には、南部菱刺しと津軽こぎん刺しがございます。
奇数目を拾うこぎん刺しに対し、菱刺しは偶数目を拾って刺すので、横長の菱ができあがります。この横長の菱形が南部菱刺しの大きな特徴です。
菱刺しの模様には、自然由来の模様が多くございます。今回は「梅の花」「梨の紋こ」「雉子の足」「牛の鞍」「鱗紋」「扇の紋こ」「綾杉升」「昆布」の模様と図案のご紹介をしたいと思います。
梅の花
「梅の花」は代表的な菱刺しらしい模様です。
こちらの「梅の花」はやや横に細い印象ですが、もう少し縦長で丸みのある印象のものや(布にもよります)、模様サイズが大きく華やかなもの、四隅に菱形があり、蕾が表現されたものなど、「梅の花」にも種々の模様がございます。
図案になります。
「なるべく布縮みが少ないように刺す」ことは菱刺しをする上で心を配りたい点のひとつですが、「梅の花」は、そのゆったり感や大らかさがよく表現された模様であると感じます。
「梅の花」模様は表面に出る糸が長めですよね。
このような点が、緻密すぎず、「梅の花」のゆったりとした雰囲気を作り出している要素のひとつかと思いますが、その「表面の長めの糸」の表現には、なかなか刺す難しさを感じます。
布が縮まらないように。そして、糸を撚らせながら。
糸が弛みすぎないように、けれども引っ張りすぎないように。
そのような程合いの糸加減がなかなか難しく、そして、その分美しい模様です。
梨の紋こ
梨を表現した模様になりますが、いかがでしょう、梨に見えますでしょうか。
丸みのある様子がなんとも可愛らしいですよね。
図案です。模様サイズは横30目×縦15段です。
雉子の足
「雉子の足」とは、雉の足跡からつけられた名前です。「雉子の足」も菱刺しの代表的な模様です。
並んだ小さい菱から線が出ている模様をいいます。
小さい菱と線の組み合わせにより、多くの種類がございます。
図案です。画像とは、菱の枠が少々異なります。
模様サイズは横38目×縦19段です。
牛の鞍
東北地方で牛のことを「べこ」といい、「べこのくら」と読みます。
昔は牛に鞍をつけ、綱で鞍と農具を結び、牛が引いて田畑を耕したり、鞍に荷車を取り付け、農具や農作物を運んでいました。
現在では、農業にも機械を用いますので、「牛の鞍」などの模様からは菱刺しの歴史を長さを感じます。
図案です。模様サイズは横38目×縦19段です。
鱗紋
「鱗紋」とは三角形が並んだ幾何学模様です。
「鱗紋」は魚や蛇、龍の鱗に似ていた為、つけられた名前ですが、菱刺しでは「鱗紋」を「花の紋コ」と呼んだ地域もありました。また、「梅の花」を「花の紋コ」と呼ぶ地域もあるなど、呼び方には違いがあったようです。

図案です。模様サイズは横38目×縦19段です。
扇の紋こ
扇を表した模様です。
「扇の紋こ」にもいくつかの模様がございますが、こちらは拾う目は全て偶数目ですが、奇数目をあけて刺す部分もある点が特徴的であると思います。
図案です。模様サイズは横38目×縦19段です。
綾杉升
「綾杉升(あいしげます)」です。
「綾杉」や「杉綾」ともいいます。升は升形のことであり、菱形が重なっていることから「綾杉升」といいます。
図案です。模様サイズは横38目×縦19段です。
日本では杉に見立てて「綾杉」「杉綾」と呼びますが、西洋ではニシンの骨に似ている為、ヘリンボーンと呼ばれます。
菱刺しの地刺しの中にはV字が横に連なる「杉綾」、縦に連なる「たてあやすぎ」模様もございます。
こちらでご紹介しているタペストリーは、「杉綾」を施した作品になります。

昆布
昆布を表現した模様です。
個人的に木のイメージもある模様ですが、確かに水中を漂う昆布の様子がよく表現されているように思います。
いかがでしょう、昆布に見えますでしょうか。
菱刺しの模様の多くは上下が対称的なものが多いですが、昆布は非対称である点が印象的です。
図案です。模様サイズは横38目×縦19段です。
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おわりに
いかがでしたでしょうか。
菱刺しの模様は菱形だけではなく、模様の様子は様々ですが、菱の枠のついた模様にはやはり、菱刺しならではの美しさ、味わいを感じます。
また、模様の名前や何を表した模様であるのかを知ることで、菱刺しが継承されてきた歴史の流れを感じたり、理解も深まりますし、想像も膨らみます。そして、作品イメージも湧いてくるのではないでしょうか。
少しでも菱刺しならではの模様の奥深さ、趣を感じて頂けましたら嬉しいです。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
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